耳元じゃない。
もっと深い。
まるで頭蓋の内側に直接落とされたみたいな声。
瞬間、脳の表面をぬるりと撫でられた感覚がした。
ゆっくり、慎重に、
でも抵抗を許さない強さで。
甘い。
怖いぐらい気持ちいい。
「ほら、こんなん隠してたんや?」
あたしの記憶の奥にしまい込んでいた小さな傷まで、
彼はぴたりと当ててくる。
なんで知ってるの。
誰にも言ってないのに。
そんな昔のこと、わたしですら忘れてたのに。
「小三のときのやつや。
泣きながら隠れとったやろ」
胸が凍りつく。
その出来事を覚えているのは、
世界であたし一人のはずやった。
「……なんで知ってるの?」
声が震えると、
頭の奥でくすくす笑う気配がした。
「見とったからやん。
前からずっと」
“前から”――その響きが、やけに長い。
数日とか数ヶ月とか、そういう単位じゃない。
まるで生まれた瞬間から隣にいたような、そんな声。
背中にぴたりと誰かが貼りついた。
温度がある。
吐息がある。
なのに、実体が感じ取れない。
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