小学校低学年の頃、母方のひいじいちゃんが亡くなりました。
正直、実感も悲しみもありませんでした。
私が物心つく頃にはもう認知症で、とにかく怒りっぽくて、すぐに暴れだすような人で……ほとんど接点がなかったからです。
葬式は母の実家で行われました。
母たちは宴会の準備でバタバタしていて、大人たちはお酒。
同年代の子どももおらず、私はすっかり暇を持て余していました。
台所にいれば何か手伝えと言われそうだし、酔っぱらったおじちゃん達にも絡まれたくない。
「ちょっとサボっちゃえ」と思って、家の中を探検し始めました。
すると、廊下の奥にガラス障子の小さな部屋を見つけました。
半分物置のような雑然とした部屋。その中央に、ふかふかのロッキングチェアがあったんです。
少し埃っぽかったけれど、私はそこで大好きだったゲームボーイアドバンスを始めました。
まったく眠くなかったはずなのに、ふわっと意識が落ちていって……。
寝落ちする直前、誰かに話しかけられたような気がしました。
でも眠気に勝てなくて、私はそのまま眠ってしまいました。
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目を覚ましたのは、母に優しく肩を揺らされたときでした。
サボってゲームしてたのがバレて怒られると思いきや、母は少し呆れた顔をしているだけで、特に叱られませんでした。
宴会場に行くと、親戚たちが次々と声をかけます。
「お、あの部屋で寝てたんだって?」
「椅子、気持ちよかったでしょ」
「いい夢見れたか?」
最初は皮肉かと思いましたが、みんな妙に優しい。
祖母なんか少し涙ぐんでいて、子どもながらに不思議で仕方ありませんでした。
その日はご馳走を食べて、“サボり事件”はそれで終わりました。
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時が経ち、母の実家に行ったとき。
ふとこの出来事を思い出し、母に聞いてみたんです。
あの小さな部屋は、亡くなったひいじいちゃんの書斎で、あのロッキングチェアはひいじいちゃんの愛用の椅子だった、と。
母たちは私がサボっていることなどとっくに気づいていて、「静かにしてるならいいか」としばらく放っておいたそうです。
台所の仕事が一段落して迎えに行くと、私はロッキングチェアで気持ちよさそうに眠っていた――その時。


























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