八潮の眉間には、くっきりと2本の縦皺が深く刻まれていた。
不意にその不機嫌過ぎる顔を見てしまった俺は、思わず口に含んだビールを吐き出しそうになった。
エリナはそんな八潮の様子など全く意に介す様子もなく、壁際に座った八潮の隣に腰を下ろす。
ボックス席だったので、奇しくも八潮の退路を塞ぐ形となった。
注文を取りに来たお兄さんに愛想を振りまきつつ、とりあえずでマッコリを頼み、「えっと〜…品川くんと八潮くんですよね?はじめましてぇ」と、改めてこちらに笑顔を向けた。
「よろしく。俺が品川で麻衣の彼氏ね。で、こっちが八潮」
俺の対面にいる八潮を示すと、奴はエリナのほうを見ようともせず「どうも」とだけ返す。
「こいつ、無愛想でごめんね。まあいつもこんな感じだから、あんま気にしないで!」
と、慌てて取り繕う俺。
それにしたって無愛想過ぎやしないか?と、怪訝に思う。
「いえいえ〜!…私、八潮さんに霊感があるって聞いて、ずっと会いたいな〜って思ってたんですよ〜。なかなか見える仲間とは出会えないから…」
そんなエリナの話を聞いてか聞かずか、仏頂面で酒をあおる八潮に変わり、俺が返答する。
「麻衣から聞いたけど、エリナちゃんも見える人なんだって?」
「そうなんですよ〜。さっきも街で変な霊につきまとわれちゃって…。…あっ!ありがとうございますぅ〜。美味しそう〜」と、到着したマッコリとお通しをオーバーリアクションで受け取りながら、答える。
「でも私、神様が悪霊を祓ってくれるんで全然平気なんですけどね〜」
…ん?神様が悪霊を祓ってくれる?
見た目によらず、何かの信徒なのか?
思わず横を見ると、含み笑いをした麻衣と目が合った。
「それそれ。ねぇ…その話、2人に聞かせてあげてよ」
麻衣が若干茶化すような感じで促した。
「そっかぁ。最初に話しておいたほうがいいよね」
そう言いながら、おもむろに左手を見せてくるエリナ。
左手の薬指の根元には、ミミズ腫れのような太い線が1本、這っている。
「私、神様と婚約してるんです」
少し照れたように、もじもじと体を揺らす。
なるほど。確かにこれは、「ぶっ飛んでる」。
俺は密かにスマホの録音アプリを起動させ、エリナに話しの続きを促した。
「ちょっと長くなっちゃいますよ」と前置きをすると、エリナはニッコリと微笑んで続ける。
「私の実家って、信越地方の山奥にあるんですけど、代々ある一帯の山を所有してるんです。それで…」
以下、エリナの話を俺なりに編集して記す。






















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