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呪い・祟り

夜鷹とペンさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

団居 まどい
長編 2025/10/21 06:04 2,264view
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私は車を走らせる。
遠くへ。
もう3時間ほど走っただろうか。
信号なんて気にしない。
こんな時間に山の府道を通る人などいないだろう。
エンジンが唸り、タイヤが苦しげに軋む。
トンネルの中を走る。
換気扇が薄汚れた空気をゆっくりと外へ吐き出す。
トンネルを走っているのは私だけ。
トンネルを抜けると窓を開ける。
開けた瞬間走行音だけだった車内が虫の鳴き声や風の鳴る音で満たされ、一気に山の得体の知れない鼓動のようなものを感じ取る。
まるで、大きな山という呪いの空間にまるで微生物がアメーバに飲み込まれて一部になるような、奇妙な感覚になる。
今はそれも心地良い。
……見えた。
橋がかかっている。
コンクリートで出来たその大きなアーチの下では轟々と川が蠢いていた。
ハンドルを握る右手に違和感を覚える。
暗い車内で目を凝らす。
蜘蛛の巣と捉えられた虫の死骸で包まれた街灯の灯に照らされて何かが光る。
蜘蛛の糸だ。
光を反射し虹色に輝く罠が私の手に絡んでいる。

その様子を見て私は微笑む。
車から降り、照らしてもすぐに闇に溶け込んで曖昧になってしまうしまう頼りない懐中電灯の灯りを頼りに少し歩く。
あった。
1mほどの灯篭の様な形の祠。
古びて山の雰囲気と同化して人工物の無機質さを失っていた。
扉は開いており中には黒い糸の様なもので出来た20センチほどの繭の様なものが吊るされていた。
正確には、繭から祠の壁面のあちこちに向かって糸が伸びていて釘で磔にされている。
私は微笑みながらその繭の糸の隙間に持ってきた髪編み込む。
持ってきた髪を編み込み終えるとほんの少しだけ大きくなった繭を見つめる。
これまでの呪いが絡み合ってこの繭ができたと思うと見ているのが恐ろしくなったが、目が離せなかった。
立ちあがろうとするとさっきの違和感を感じる。
それも全身に。
懐中電灯で照らすと私の体のいたるところに虹色の糸が纏わりついている。
目を凝らすと祠の中の繭に向かって数ミリの小さなものから、巨大な網を張るような毒々しい色合いの大きなものまで大量の蜘蛛が行列を作って這いずっていた。
私は車へ走る。
すると蜘蛛の行列の発生源が見つかった。
橋の真ん中に錆びて折れた鉄格子が牙のようにみえる排水用のあながぽっかりと口を開けてそこから大量の蜘蛛と川の獰猛な雄叫びが吐き出されていった。
私は見てはいけないという本能的な恐怖が粘着質に引き留めるのを振り切り穴を覗く。
最初、穴は塞がっているのだと思った。
でも違った。
穴から見える橋桁のあたりに巨大な黒い塊があるから塞がっている様に見えたのだ。

目を凝らすと穴から塊へ伸びる蜘蛛の糸を蜘蛛が埋め尽くしていた。
懐中電灯の光を当てるとその表面が波立つ。
塊はまるでその塊自体が生きているかのように形をかえ、すり鉢状に形を変えた。
私は、それを凝視した。
風化して今にも崩れ落ちそうなミイラの様になった人の形をしたモノから8本の節足動物の足が歪に突き出てそれがマリオネットのように糸で引っ張られてゆっくりと蠢くそれを。
気づけば、私の服は白とも銀ともつかない虹の光を放つ透明な糸によって覆われていた。
私は笑った。
蜘蛛は嫌いだが糸は美しい。
これに包まれるなら悪くないのかも知れない。
だいたい、どうせあいつも今頃こうなっているだろう。
あいつと死に方が同じなのは癪だけれども、私の気持ちは満たされている。
だけどあいつはどうだろう。
絶望を抱いたまま包まれていくのだろう。
そう考えると笑い声が止まらなかった。
開けた口の中から糸を引きながら蜘蛛が体の中に入っていく。
それでも私は笑う。
気づけば周りからも笑い声が聞こえる。
押し殺すような笑い声、甲高い笑い声、馬鹿にするような笑い声、棒読みの笑い声、下卑た笑い声、子供のような愉快げな笑い声、愛想笑いのような笑い声、わざとらしい笑い声、乾いた笑い声、嘲笑う様な笑い声、しゃがれた笑い声、高らかな笑い声、
次第に一つの抑揚のない笑い声に変わる。
私も笑う。
織り込まれて一つになるように。

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コメント(3)
  • 信号気にしないのはダメだってww

    2025/10/21/10:59
  • よかったよ

    2025/10/21/11:31
  • 月の光を受けて煌めく蜘蛛の糸のように、美しい文章。

    2025/10/21/22:17

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