中学生の頃の記憶。
黒板の前で泣き出した。気づいたら、手にカッターを持っていた。
理由もわからなかった。ただ、何かが頭の中で「叫んでいた」。
徹が5歳のとき、実の父は交通事故で亡くなっていた。
その後、徹が小学校3年のときに、義父はやってきた。
酒に酔っては暴れ、夜な夜な徹に這い寄った。
「なにもしないよ、な?リサちゃん…」
記憶はモザイクのように途切れ途切れで、それでも心の奥には
“痛み”が焼きついていた。
ある日、鏡の中に“別の自分”が映っていた。
それは、長い髪、整った顔、赤い口紅。
まるで夜の蝶のように美しい。
「久しぶりね、徹」
誰だ?と問うても、その唇は笑っているだけだ。
リサとしての生活の痕跡は、想像以上に周到だった。
ホテル、偽名、予約済みのレストラン、カードの履歴。
精神科医・中野は再び言った。
「あなたの中にいる“リサ”は、非常に攻撃的で、知能が高く
とても危険な存在です。」
治療過程の中で、あの日を境に、度々リサと思われる存在が
人格交代していた。
そのたびに、リサは中野を小馬鹿にしたような口調で
「あんたに徹が守れるの?徹には私が必要なのよ!
消そうと思ったってムダだから。」
そんな言葉を吐き捨て、罵倒し中野を敵視していた。
「先生、俺どうしたらいいですか?」
「一緒に治療していきましょう、治療によって
実際に治るケースもたくさんあります。でも、その多くは
その人格と上手く折り合いをつけながら、上手に共存していく
というのが、実情でもあります。
でも諦めないでください。森川さんの中には、違う形で
あなたを守ってくれる、もう2人の人格が存在します。」


























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。