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不思議体験

辻村さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

残暑
短編 2025/10/18 23:35 4,130view
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中に入れそうな廃屋があったと言うTにみんなで着いていくと、
元はお屋敷と呼ばれていたであろう、大きな平屋がありました。
中は埃まみれで、そっと歩いても床が軋む。
家と呼ぶにはあまりにも頼りない木の構造物は、霊など関係なく純粋に危険です。
恐る恐る足を進める私たちでしたが、Tはスタスタと奥に進んでいきます。
取り残されないように彼を追って、廊下の突き当りを曲がってすぐのところにある、
十五畳ほどの和室にたどり着きました。
これ見てくれよ。そう言ったTが示す先には、
壁掛けの小さな祭壇のようなものがありました。
朽ちかけたこの家とは不釣り合いに小綺麗なその祭壇を皆がまじまじと観察する中、
私は床に落ちた饅頭を見つけました。

市販であろう饅頭の包装は、汚れてこそいましたが、中身は腐っていません。
不思議に思った私は、なんとなく、それがどこで売っているものなのか気になりました。
スマートフォンを取り出して、電波を確認する。山奥ということもあり、かなり通信が遅い。
もう少し電波の入りやすい場所はないかと廊下に出て、
私はふと、大きな違和感を覚えました。
先述したように、この廃屋はとても大きく、廊下も長い。
実際のところ、あの和室に辿り着くまでにいくつかの部屋を素通りした。
なぜ、Tはあの部屋に直行できたのだろう。
私たちの興味を引く祭壇なんてものがある、あの部屋に。
そう思った瞬間に、ずっと私の周囲にあった嫌な湿気が、鼓膜に届いていた虫の声が、
一切無くなったように感じました。

あの部屋に目線をやると、皆は祭壇を見つめて、茫然と立っていました。
動く気配のない皆の背中。
私はもう、耐えられませんでした。

足早に廃屋を出て、来た道を駆けて戻り、バイクにまたがって、エンジンをかける。
一切後ろを振り返らずに、私は帰路に着きました。
黙って逃げ帰った罪悪感はあります。
ですが、こうするのが私の最適解であったと、今でも思います。
あのコミュニティからはすぐに抜けて、廃村はもちろん、廃屋なんて近づいてもいませんし、
ホラー映画もあまり見なくなりました。
でも未だに、あの祭壇が夢に出るのです。
あの嫌に小綺麗な祭壇が、魅力的に思えて仕方ないのです。

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