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「あの子、もう帰ったの?」って聞かれた時、
なんて答えていいか分からなくって。
だって、私は今日ずっとひとりで出かけてたから。
私は思わず、荷物で塞がっていた左腕じゃなく、
空っぽの右腕を見ました。
……何もないはずなのに、右腕が、少しだけ重い気がしたんです。
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この前も知らないおばさんに、
「母親なら、子どもほうみて歩きなさい」
「そんなに引きずったら、可哀想でしょう」
なんて注意されてしまって。
思わず右腕を意識してしまって、ぎゅっと掌に力が入りました。
その瞬間、誰かに手を握り返されたような感触があったんです。
小さくて、細い指。
爪が薄くて、柔らかくて、でもちゃんと痛いくらいに食い込んでくる。
おばさんには「すみません」なんて適当に言って、すぐ離れました。
恐る恐る自分の右腕を見たら、
手から腕にかけて、点々と小さな跡が残っていました。
三日月みたいな、細い跡がいくつも。
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今でも、気を抜くとやっぱり右腕だけ動かない。
できるだけ意識して振るようにしてるんですけど。
歩いてる途中で、はっと自分の右腕が動いてないことに気づく時、
思わず右腕のほうを見ちゃうんですよね。
……空っぽにしか見えないこの右腕は、
今、誰に繋がれてるんだろうって。
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