私の母校の存在しない映画研究会

「あ、エルさんが昔、作った自主映画「魔法少女・夏物語」が投稿されている」
土曜日の朝、私の彼氏のロニーは「YouTube」にて新規に投稿された動画を見ていた。エルさんとは私とロニーの高校時代の親友である。ただ、彼女は若くして死んでいる。ロニーから聞いたところによると、エルさんは高校卒業後、料理屋で働いていたが、自宅で天ぷらの油を浴びて、大やけどした後、包丁で喉をかっ斬って、「自殺」した。という事になっているが、ロニーから聞いた話によると
「エルさんはどうやら、母親に殺されたようなんだ。俺の憶測だと「天ぷら」の事で口論になった可能性もあるんだよ。それで、ブチ切れた母親に殺されたと俺は思っている」
エルさんの母親の料理は糞不味く、あまりにも適当な調理をしていた(ははぁん、洒落怖に掲載された「天ぷら」みたいね)。また、些細な事でエルさんに暴力をふるっていた。父親はというと、母親同様、エルさんに「躾」と称して暴力をふるう男であった。そして、エルさんの友達関係や趣味にもいろいろと口を出すことも多かったらしい(門限にもうるさかった)。要は毒親である。そのせいで友達もいなかった。私もエルさんの体を見たが、体中が痣だらけだったのを思い出す。そんな、エルさんの心のよりどころは高校時代に所属していたサークル「映画研究会」であった。ロニーは暇なときに「映画研究会」に顔をだすことがあった。そこでジョージ・A・ロメロやダリオ・アルジェントの映画などの話をしたという。また、ロニーの自宅で「ビヨンド」「デモンズ」「悪魔の墓場」といったイタリアンホラー映画の鑑賞会を開くこともあった。そんな時、「映画研究会」は部員たちで自主映画を作るという事になった。映画のタイトルは
「魔法少女・夏物語」
というもので、魔法少女役にエルさんが抜擢された。さて、映画の話はというと、ある田舎町に魔法少女がやって来た。魔法少女の目的は
「魔法でみんなを幸せにする」

という事であった。まぁぶっちゃけ言うと、ミンキーモモやぴえろ魔法少女シリーズ、DCSSのアイシアみたいなもんである。ところがこの魔法少女、魔法が全く使えないのだ。魔法少女は
「男と性行為すれば、魔法が使える」
かもしれないと、妄想に至ってしまう・・・。ここまで聞いて勘の鋭い方はいると思うけど、この自主映画は本番シーン有りのポルノである。今、思えばどっかのインディーズが製作した裏ビデオだったかもしれない。下手すると児童ポルノ違反に引っかかる可能性すらある。当然、魔法少女は田舎町の男たちと性行為に明け暮れてしまうのだ！ちなみに私は「魔法少女・夏物語」を初めて視聴した時、
「これのどこが心温まるファンタジーやねん！」
と突っ込んだものだ。ラストはというと、魔法少女は
「魔法でみんなを幸せにする」
という思想を捨てて、売春婦になったというオチで終わる。ロニーは

「実はな。「映画研究会」のメンバーはエルさんだけしか。あった事がないんだよ。「映画研究会」の部室に行ってもエルさんしかいないときが多かったんだ」
「もしかして「映画研究会」のメンバーはエルさん一人だったとか？後は全員、幽霊部員の可能性もあるんだけど」
「いや、うちの高校はサークルは「メンバーが4人以上いないと作れない」決まりになっていた。念のため、俺はエルさんに「映画研究会」の名簿を見せてもらった・・・。名簿に書かれていた「映画研究会」のメンバーはうちの高校に在籍(存在)しなかったんだ」
私は真っ青になった。ロニーは話を続ける
「学校の先生たちにも「映画研究会」の聞いて回った、顔見知りの体育教師からは
「おいおい、うちの高校には「映画研究会」というサークルは存在しない。そんなん、高校の部活一覧表を見ればわかるはずだ。お前もしかして、受験勉強のストレスの所為で白昼夢でも見たんじゃないか？ま、そーゆー生徒はタマにいるちゃいるけどな、はははッ」
と言っていた。だが、エルさんが存在しない「映画研究会」に入っていたことは事実なんだ。現に俺もその部室に行ったこともあるし、俺は気になって、「映画研究会」の部室まで言ったが、そこは部室ではなく、昔から存在する物置部屋だったんだ。じゃあ。エルさんが所属していたあのサークルは一体何だったんだ？という事になる」
ロニーは「魔法少女・夏物語」で魔法少女役を演じるエルさんを見ながら、私に怖いというより不思議な昔話をしてくれた。

終わり