私は幼少期を山の中で過ごした。
山の中の小さな村にある祖父の家で。
祖父にはよく山仕事の手伝いをさせられた。
山林の下草を刈らされたり、木の枝打ちをさせられたり。
苗木を植えたこともある。
子供なのでお手伝い程度ではあったけれど。
祖父はよく、
「この苗木が育って、山から切り出すのは
ワシでもなくオマエでもなく、オマエの孫だろうな。」
などと言っていた。
杉の木などが製材して建材に出来るほどに
太く大きく育つまでには、何十年もかかるので。
だが残念なことに私は未だ独身で、いや、
だが残念なことに当時には既に
「日本の林業は先が無い」
と世間でも言われていた。
外国産の木材や工業製品の建築資材などが急速に大量に
世の中に出回り、林業は確実に儲からなくなっていた。
今にして思えば祖父はむしろ、
「山で生計を立てられるのは自分の代までかもしれない」
と自覚していて、それゆえに夢と思いつつ私に語っていた
のかもしれない。
祖父の言葉で他に記憶に残っているのは
「木が泣いた」
という言葉だ。
ある日の山仕事で、祖父はかなり古くて太い木を
チェンソーで切った。
崖状の斜面に生えていた木で、崖の下には国道が走っていた。
いつ国道に落ちてきてもおかしくないから、いまのうちに
落ちないように手はずを整えたうえで切り落としてしまおう、
ということだった。
この話は怖かったですか?
怖いに投票する 6票
























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。