すると、ひょっとこの面の男は小走りでこちらへ近寄ってきた。
顔をぐいっと俺の眼前に突き出す。
間近で見ると、その面は古い木で彫られたものらしく、角が擦り減り、ところどころにヒビが走っていた。朱色の塗料も剥げ落ち、目や口の縁には黒ずんだ汚れがこびりついている。妙に湿った匂いまで漂ってきて、俺は思わず息を止めた。
「おじさん、山の外から来た人?」
声はまるで子供がはしゃぐように無邪気で、面の口の穴から吐き出されるように響く。
ぐいぐいと迫ってくる様子に、俺は戸惑い、思わず一歩後ずさった。
心臓が早鐘のように鳴る。
助けを求めていたはずなのに、目の前の存在は人間なのかどうかすら分からなかった。
「もしかして……おじさん、迷ったの?」
ひょっとこの面の奥から、また子供のような声がした。
俺は息を呑み、言葉を失ったが……恐る恐る小さく頷いた。
すると、男は面越しににかっと笑ったように見えた。
声も弾んで、どこか安心させるような調子になる。
「そっか。じゃあ、ちょっと待っててね」
そう言うと、ひょっとこの男はすっと家の中へ戻っていった。
暗い室内に、足袋の足音だけがトン、トン、と響いていく。
十秒以上が過ぎた頃…ギィ、と再び扉が開いた。
顔を出した男は、今度は弾んだ声でこう告げた。
「泊めてもいいよって、兄さんたちが言ってるから。……今晩はここに泊めてあげる」
俺は言われるまま、玄関に上がらせてもらった。
中に入ると、外見以上に古びていて、空気はひんやりとして湿っていた。
床板はところどころ軋み、踏むたびにギシッと音を立てる。壁の板にはところどころ黒ずんだシミがあり、古い柱時計の針は止まったまま時間を刻んでいない。
天井からは蜘蛛の巣が垂れ、ぼんやり差し込む光が埃に揺れている。
家具も古く、ほとんどが木製で、座布団や食器も何十年も使われていないような色褪せたものばかりだった。
ひょっとこの男は、面をつけたまま俺の前に立ち、首をかしげて言った。
「おじさん……名前は?」
俺は少し戸惑いながらも、恐る恐る自己紹介した。自己紹介すると、男はくるりと振り向き、少し体を揺らしながら、明るく答えた。
「僕はシバって言うんだ。よろしくね」
その声は、面越しでもにこやかで、人を安心させる何かがあった。
シバは軽く頭を傾げ、続けた。






















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