「大鷹さんの住んでいる地域って、老舗和菓子屋「仲村屋」があった所?」
僕の職場の同僚であるジェーン・メリーが僕にそんなことを聞いてきた。
「大鷹さん。今は無い老舗和菓子屋「仲村屋」の事なんだけど、あそこは私でも敬遠していたのよ。なんというか、店の中の雰囲気とか空気とか・・・気分が悪くなる嫌な気配がするのよ」
「は?昔からそこに悪霊が住んでいたとか?」
「いや、あそこは「仲村屋」の社長に娘さんが生まれてから、そんな雰囲気になったわ」
メリーが言うには「仲村屋」の社長に一人娘が生まれてから、多くの取引先や古くからの常連さんを持っていた老舗和菓子屋の経営は一気にガタガタになった。それだけでなく、社長の親族がエボラや梅毒でバタバタと死にまくった。古くから務めていた和菓子職人たちも次々と辞めていった。メリーが子供の時に両親と和菓子屋に行ったことがあるが、その時の雰囲気や空気は落ち着いており、異常は何もなかった。だが、一人娘が生まれてから、老舗和菓子屋の雰囲気や空気が悪くなったという。昔と比べるとガラガラの状態だった。昔、メリーが子供の頃に来た時は繁盛していたのに。そして、和菓子の質も落ちていた(もはや不味いっていうレベルではない)。和菓子屋の室内の雰囲気の所為か吐き気を催すくらいに気分が悪くなったメリーが和菓子屋から出るとき、吉村というこの地域に住んでいる男性に声をかけられた。吉村は「仲村屋」の社長の一人娘の事を話し始めた。どうやら、その娘は地元では「鬼子」と恐れられる祟り人であった。吉村が言うには「鬼子」が生まれた家は一族が滅ぶ(没落するともいう)と言われる言い伝えが古くからあった。ただ、老舗和菓子屋「仲村屋」に勤務する和菓子職人や地元の住民たちは「一度も」一人娘を見たことがない、との事であった。吉村の考えだと
「おそらく「鬼子」とされる一人娘は自宅の座敷牢に軟禁されているんだろう」
と推理している。それと吉村は驚くべき、事実を伝えた。
「お嬢さんは「仲村屋」の社長を見たことあるかい?」
流石にメリーでも社長の顔位は知っている。眉間に「ほくろ」がある40代の男性だ。吉村は写真を見せる。それは吉村と「仲村屋」の社長が写っている写真だ。だが、写真に写っている「仲村屋」の社長の眉間に「ほくろ」がなかった。
「あの社長は偽者だな。本物の社長は眉間に「ほくろ」がないんだ。本物の社長はおそらく死んでいるだろうよ」
そういえば、今朝のテレビのニュースで「ぽっくり堂」近くの山中で身元不明の白骨死体が二体、見つかったことが報道されたのを思い出した。吉村の憶測では偽者は老舗和菓子屋を乗っ取るため、本物の社長を殺害したと思っている。そして、もう一の白骨死体は本物の社長の奥さんだと思われる。
数日後、老舗和菓子屋が原因不明の火災が発生した。火災で社長と奥さんの焼死体が見つかった。ただ、一人娘だけが見つからなかったという。地元住民からの証言では深夜に一人娘が自宅にガソリンをまいている姿が目撃された。目撃者曰く、暗闇のせいで一人娘の顔や容姿が見えなかったそうだ。未だに「鬼子」とされた一人娘は行方知れずである。
終わり





















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