私は授業をぼんやり聞き流しながら、古いフィルムテープに焼きついた記憶を再生していた。
なんだか一日中、窓の向こうの雨を見ていた気がする。
気分転換にカラオケでも行こうか。
授業から解放され雲間から日が差したような気がした。
「深雪!これからカラオケでも行かない?」
仲の良いクラスメートの深雪を遊びに誘ってみた。
「いいね、行こっか!」
雨は上がっていた。
分厚い雨雲の切れ間から差し込む夕陽が校舎の壁をオレンジに染める。
校門の影が長く地面に伸びていた。
道沿いの木々も生きていることを思い出したかのように青々としていた。
吹き抜ける風は涼しく、雨で沈んでいた気持ちを優しく包み込んだ。
駅までの道中の紫陽花から滴る雫を夕日が乱反射して煌めく。
ぽたり ぽたり
「あれ?天気雨?虹が見えるかも!」
と深雪の声は差し込む夕日よりも晴れやかだった。
私も深雪と一緒に虹を探した。
雨が強くなってきたので、ビニール傘を差す。
帳が降り、周りの景色が洗い流された。
深雪の声が遠のく。傘を打つ雨音がやけに大きく聞こえる。
また、世界から切り離されてしまった。
雨の帳の向こうで誰かが手を振っているのが見えた。
鮮やかな紫陽花を影が覆った。
「深雪?」
呼びかけてみたが、相変わらず人影は手を振っている
「その日が来れば分かる。」
祖母の残響が耳の中をこだました。
ポケットのお守りを強く握った。
傘を打つ雨音がさらに強くなったような気がした。
人影はこちらに近づいてくる。
周りの景色は帳の向こう側へ消えてしまった。
一歩、また一歩、ゆっくりと。
祖母の言いつけは何だったのだろう。
むしろ迷いなくこちらに歩を進めている気さえした。
人影は雨の帳を越えて私の前まで来た。
お守りをさらに強く握った。
人影の顔を見た。
「え?私?」
私の意識は帳の向こう側へ沈んでいった。





















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