Aさんという20代の女性の方から聞いたお話です。
Aさんは小学校高学年のころ家の近所の塾に通っていました。徒歩で通っていたのですが、塾が終わるのは19時過ぎ。秋ごろには日も落ちてすっかり暗くなってしまいます。そして塾からの帰り道の、とある通りをAさんは少し苦手に思っていました。
その通りには街灯が5本道路沿いに立って明るく通りを照らしているものの、人通りが少なく妙に静かでどこか気味が悪い。
ある日、塾からの帰り道、Aさんがその通りに入ると、その5本ある街灯の真ん中、3つ目の街灯が壊れていてそこだけ暗くなっていた。
普通、一本だけ街灯が壊れていても、ほかの街灯がついていれば極端には暗くならないものなのだが、なぜかその通りはその3つ目の壊れた街灯の周りだけ、闇が固まったように暗くなっている。
怖いな、と思いながらもその通りを歩いていたAさんは、その3つ目の街灯の周りの暗くなったところに人の顔のようなものを見つけてしまった。おぼろげな輪郭の中に目と口の穴がぽっかりと開いたものが暗闇の中に溶け込むようにして浮いている。
Aさんは非常な恐怖を感じながらも、その顔の前をさっと駆け抜けた。それ以上は特に何もなく、家に帰ることができた。
その後も、その通りを通るたびに、3本目の壊れた街灯の暗くなったところに顔のようなものが浮いているのだが、とくに何をしてくるわけでもなく、またその通りを迂回するとかなり遠回りになってしまうこともあって、Aさんは仕方なく、顔をなるべく見ないようにして、さっと走り抜けるようにして、その通りを使い続けた。
そういうことが10回ほど続いた日の塾からの帰り道、Aさんはいつものようにその通りを走り抜けようとしたが、走りながらふと気づいてしまう。今まであまり見ないようにしていたが、どうもその浮いている顔が最初に見たころよりもはっきりしている。以前はおぼろげな輪郭のようなものだったのが、今でははっきり人の顔に見える。自分と同じ年頃の少女の顔、いや、それどころかあれは自分の顔そのものではないか?
Aさんが知らずのうちに恐怖に立ちすくんでいると、そのもう一人の自分は顔だけでなく闇から抜け出すように体もはっきりとしてくる。その上下の服も背負っている学習かばんも、今まさに自分が身に着けているものと同じものだった。そして、そのもう一人の自分がAさんに向けてゆっくりと近づき、手を伸ばしてくる。それとともに暗闇がAさんを包み込むように濃くなってくる。
恐怖に頭の芯がマヒする一方でAさんには、そいつが自分と入れ替わろうとしていることがはっきりと分かった。そして入れ替わられた自分は闇にのまれ二度と家に帰ることはできない。
もう一人のAさんが1歩2歩と近づきAさんの顔に触れるその寸前で、さっと強い光が差し込みもう一人のAさんと闇が掻き消えた。気づくと一台の車がヘッドライトでAさんを照らし、立ちすくむAさんに気付いたドライバーが窓を開けて、「おおい、大丈夫?」と尋ねる。
しかしAさんは返事もできず、そのまま全速力で家に帰った。
その後、Aさんは2度と夜間にその通りを使うことはなく、必ず遠回りして家に帰るようにしたとのことです。
気を付けてください。街灯が夜の闇を照らすようになった現代でも、闇に住む怪異がいなくなったわけではありません。むしろ闇の中は、光に追いやられたものが集まり、以前よりも危険な場所になっているのかもしれません。

























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