全脳細胞が警笛を鳴らす。耳鳴りがなり、心臓の鼓動が早くなる。
ついに女は俺の目の前まで来た。そして、不気味なほど抑揚のない声でこう言った。
「……アナタジャナィ……」
「……アナタジャナィ……」
*
「…………オマェ、ダレ?」
視界がどんどん狭くなり、ついにその女の顔以外は何も見えなくなっていた。
さっきまでぼやけていた女の顔は、ぶれていたピントが合ってくるように、徐々に鮮明になっていく。
これは本当にヤバい。顔を見たら、本当にやばい気がする。
目を瞑りたかったが、体は動かない。
顎、頬、耳、鼻、口……徐々に鮮明になっていく女の顔。そして、最後に目が……
…
…
…
パン!!!!!と、音がした気がした。気がつくと、女はおらず、聞き慣れた入店音が鳴り響いていた。
「悪ぃ、悪ぃ、ダーリン候補から電話があってな。……ってどうした?顔色相当悪いし、てかお前、なんでレジに立ってんだ?」
いつもなら妙にムカつく先輩の軽口が、なぜだかとても暖かく感じられた。
「先輩……本当に勘弁してくださいよ……」
俺は先輩に、和服の女が現れたこと。体が動かなくなったことを話した。
先輩は妙に腑に落ちた顔をして、こう言い放った。
「おいおい、やっぱまじなのかよ。このコンビニの曰く。」
「どういうことです?説明してください。」
先輩は何故か勝ち誇ったような顔をして、続ける。
「この土地に建つ家に一人でいると、出るんだよ。」
「多分お前が見たやつがそうだろ。」
「ちょっと待ってください。てことは、先輩はその話を知ってて俺を1人にしたんですか?!」
まぁな。と笑った先輩。泣きながら怒る俺。
深夜のコンビニはいつもと同じ様相に戻った。
そこからは何事もなく、次のシフトの人が来て、俺たちは帰る。
「あ、そういえば、話を最後までしていなかったな。」

























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