「え?なんの事です?」
「怪談だよ。怪談。 お前じゃないって、そう言われ続けて、段々と、お前誰?ってふうになっていく。お前誰?まで言われたやつは、死ぬまで追いかけられるらしいぞ。その女に。1人になると、現れるみたいだ。」
「えっと……まじですか?それ。」
俺は、女にお前誰?って言われたなんて、先輩に話していない。俺が話したのは、女が現れて、体が動かなくなったことだけだ。
「奥さんは旦那を探しているからな。誰かわからないやつでも、旦那って可能性を捨てきれないんだろ。だから、それを確認するために追ってくる。ただ、最後には原爆に焼かれてドロドロになった状態で現れるそうだぞ。」
平然と言い放つ先輩。
「あの……言われたんですけど……お前誰って……」
「ガチ?」
「ガチです。」
はぁ……
ため息をついたかと思うと、使い古したハイブランドのバッグを漁り、これまた古ぼけた木の塊みたいなのを差し出した。
「なんすか?これ。」
「これ持っときゃ大丈夫だ。じゃあな。」
それだけ言って、颯爽と原付で夜闇に消えていった。
ちなみに、本当に何も起こらなかった。
それから、俺はその木の塊を常にカバンに入れている。
先輩はその日以来、バイトに来なくなった。
ま、いつか飛ぶだろうなとは予想していたけど、本当に急だったから、驚いた。
程なくして、俺もバイトを辞めた。
今でも、夜中に起きていると思い出す。
月夜の下、太陽のような笑顔で、飄々と怪談を語る先輩の顔を。
〜続〜
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