「あ、俺行ってきます。」
「おう、頼んだぞ。私はここでちゃんとお前が接客しているか、しっかりと監視しているからな。」
とか言って、実際はスマホで韓ドラ鑑賞だろう。
意外と心は乙女なんだから。全く。
ダリィな……漏れそうになる心の声を抑え込んで、バックヤードから店の方に出る。
客はタバコとストロングゼロだけ買って、すぐに出ていった。
この時間に来る客はみんな愛想が悪いな。
先輩の話の続きでも聞くとするか。ダルいけど。
バックヤードに戻って、韓ドラを見てる先輩に、続きを話してください。と言おうとして一瞬固まった。
先輩が居ない。
「はぁ……またサボりか? 」
合コンが上手くいったとか何とか言っていたし、店の外で男と通話でもしているのかもしれない。本当にやれやれだ。そもそも、俺が先輩のタイムカードを先に切っておくって、犯罪じゃ……
その時、またもや一瞬固まった。
何となく視線を送った監視カメラの映像に、さっきはいなかった客の影が写っていたからだ。
何故かいつもより画質が荒く、ボヤけてよく見えない。
ハッとして、慌てて店の方に戻った。
店に戻ると、更に驚かさせられた。
入口の自動ドアに入ってすぐのところで、直立不動で”その”客が固まっていた。
古ぼけた格好をしている女だった。
和服と言うやつだろうか。
何故か顔はぼやけて見えなかった。
全身の毛穴から汗が吹き出すのを感じた。
バックヤードに戻って、裏口から逃げよう。
……そう思ったのだが……
体が銅像になったかのように動かない。指先すらも動かせない。
寒い。なんだこれは。
視界がどんどん遮られていき、和服の女以外の景色がどんどんぼやけてくる。
そして、ゆっくりと、その女はこちらに歩みを進めてきた。
逃げなければ。このままだとマズイ。
























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