石田がいなくなった次の朝、空気は明らかに“重く”なっていた。
昨日までの風の音や虫の声が消え、代わりに、どこからともなく低い唸りのような**「うぉぉ……」**という声が絶えず耳にまとわりついていた。
俺と北野、そして谷本の3人は、梶尾婆の勧めで村の奥、「旧神社跡」に向かうことになった。
そこに“神人”に関する記録や、まだ語られていない儀式の真相が残っているという。
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神社へ向かう道は、草に埋もれていて、人が通った気配がまるでなかった。
ただ、途中で不自然なものを見つけた。
白くなった骨。
獣のものかと思ったが――それにしては骨の形が、あまりにも“人間”に近すぎた。
「……たぶん、石田じゃない」
谷本がぽつりとつぶやいた。
「どうして分かるんだよ」
「“匂い”が違う。これは、だいぶ前に喰われたもの」
「喰われた」――その言葉に俺と北野は絶句した。
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神社跡に着くと、祠は崩れ、御神体の石像は頭部だけが削り取られていた。
ただ、その台座にだけは苔も草も生えておらず、まるで“誰かが定期的に手入れしている”ようだった。
「ここだけ、生きてるみたいだな…」
北野がぼそっと言った。
そのとき。谷本が突然、頭を抱えて倒れ込んだ。
「やばい……入ってくる。誰か、わたしの中に入ろうとしてる」
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彼女の目が見開かれ、瞳孔が揺れていた。
「お前……じゃない、誰だ……誰だっ…誰が器か……誰を喰らう……」
異常なのは、彼女の声の調子だ。まるで複数の声が重なっているように聞こえる。
「谷本!? 大丈夫か!?」
俺が揺さぶると、彼女は突然、意識を取り戻した。
「…私、いま“あや”と目が合った。
祠の中にいた。――まだ、喰われてなかった」

























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