「……昭和59年って、40年前?」
「ていうかさ、“神に見られる”ってなに?」
谷本が小さく呟いた。
「……あのさ、マジで言うけど、いま引き返さない?この村、空気が違う。匂いも変わった。誰か“祈ってる声”しなかった?」
耳を澄ますと、風に乗ってどこかから「しゃん…しゃん…」という鈴の音がかすかに聞こえた気がした。
「祈りってより……あれ、祭囃子?」
石田が小さく笑った。
⸻
◆
村に入ると、時間が止まっていた。
崩れかけた家々、草に飲まれた道、朽ちた鳥居。
しかし、どの家の前にも“何か”が置いてあった。
丸い皿に塩と米。そして赤く染めた紙人形のようなもの。
「これ、贄(にえ)…じゃないよね」
「人形か……それとも“人形代”か」
俺と谷本が同時に口にした。
⸻
そのとき、鳥居の先から、杖をついた老婆が近づいてきた。
全身黒づくめ。真夏なのに、長袖の羽織。
顔の半分がシミで覆われていて、どこか“人間じゃない”感じがした。
「……おまえたち、よそから来たね」
その声は、風に擦れたような乾いた音だった。
「梶尾婆さん……ですか?」
俺が聞くと、老婆はニヤリと笑った。
「おまえら、“神を見に来た”んだろう」
「――神は、もう動きはじめとるよ」
⸻
その言葉と同時に、また、鈴の音が風に乗って聞こえた。
梶尾婆さんの案内で、俺たちは村の一角にある古い集会所に通された。
入り口には埃をかぶった赤い注連縄(しめなわ)が吊られ、畳はカビ臭く、照明もつかない。
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