奇々怪々 お知らせ

妖怪・風習・伝奇

かしわさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

ミマツリ ― 神人の村 ―
長編 2025/07/28 17:59 8,360view
0

「……昭和59年って、40年前?」
「ていうかさ、“神に見られる”ってなに?」

谷本が小さく呟いた。

「……あのさ、マジで言うけど、いま引き返さない?この村、空気が違う。匂いも変わった。誰か“祈ってる声”しなかった?」

耳を澄ますと、風に乗ってどこかから「しゃん…しゃん…」という鈴の音がかすかに聞こえた気がした。

「祈りってより……あれ、祭囃子?」
石田が小さく笑った。

村に入ると、時間が止まっていた。

崩れかけた家々、草に飲まれた道、朽ちた鳥居。
しかし、どの家の前にも“何か”が置いてあった。

丸い皿に塩と米。そして赤く染めた紙人形のようなもの。

「これ、贄(にえ)…じゃないよね」
「人形か……それとも“人形代”か」

俺と谷本が同時に口にした。

そのとき、鳥居の先から、杖をついた老婆が近づいてきた。

全身黒づくめ。真夏なのに、長袖の羽織。
顔の半分がシミで覆われていて、どこか“人間じゃない”感じがした。

「……おまえたち、よそから来たね」

その声は、風に擦れたような乾いた音だった。

「梶尾婆さん……ですか?」
俺が聞くと、老婆はニヤリと笑った。

「おまえら、“神を見に来た”んだろう」
「――神は、もう動きはじめとるよ」

その言葉と同時に、また、鈴の音が風に乗って聞こえた。

梶尾婆さんの案内で、俺たちは村の一角にある古い集会所に通された。
入り口には埃をかぶった赤い注連縄(しめなわ)が吊られ、畳はカビ臭く、照明もつかない。

2/11
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。