「ここで話を聞けってこと……?」
北野が辺りを見回しながら言う。
「“話す”んじゃないさ。“見せる”のさ」
梶尾婆は、そう言って、押し入れの奥から一つの木箱を取り出した。
中には、白黒写真や帳面、そして1枚の布が入っていた。
手ぬぐいのようなそれには、何かの文様と、赤黒く染み込んだ血の跡のようなものがあった。
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「“ミマツリ”っちゅうのはな、もとは“神迎え”の儀じゃ」
「毎年、3月と8月に“神人(かみびと)”を迎えて、集落の無病息災を祈る。…が、それは建前じゃ」
婆の目は笑っていない。
「“神人”は、人から選ぶ。選ばれた者は、“器”として捧げられる」
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石田が笑った。「えっ、マジで言ってるんすか。人間生贄?中世かよ」
けど婆は微動だにせず言った。
「最後の“器”は、昭和五十九年に捧げられた。名は“あや”…8歳の女の子じゃった」
谷本が小さく息を呑んだ。
「その子、どうなったんですか?」
梶尾婆は、目を閉じたまま言った。
「神に喰われた。けどな――その“あや”が今でも村の中をさまよっとる」
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それから俺たちは、集会所の奥にある“神人の間”と呼ばれる部屋へ通された。
畳が不自然にへこんでいて、その中央に石の台座がある。
その表面には無数の爪痕のような引っかき傷があり、その一部に髪の毛のようなものが残っていた。
「これは……」
「“器”が、拒んだ証よ」
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夜になると村の様子が一変した。
明かりが消え、どこからともなく祭囃子のような音が聞こえてくる。

























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