目を覚ましたのは、村を出て3日後。病院のベッドの上だった。
けれど、彼女の記憶は途切れていた。
「…私、“あや”の中にいた気がする」
「誰かが、ずっと私の名前を呼んでた。
でも、もうひとつの声が、“まだ終わらない”って……」
⸻
一方で、石田の行方は結局分からなかった。
警察に捜索願は出したが、集落には彼の姿はなかった。
ただ、谷本の枕元に“白い手ぬぐい”が置かれていた。
赤黒い血と、古い文字が滲んだそれを、俺は封筒に入れ、鍵付きの箱にしまった。
⸻
◆
夏が終わり、秋になっても、あの村の記憶は消えなかった。
霧島先生からも、あの後連絡はなかった。
北野とは時々会うが、どこか様子が変わった気がした。
祭囃子のような音を、空耳で聞くようになったと話していた。
「なあ、あの村……ほんとに封じられたのか?」
「封じたのは、“あや”だよ」
谷本がそう言ったのは、10月の終わりだった。
「たぶん、彼女が“器”になりながらも、最後まで自我を保ってた。
でも、それは“喰い守”にとって邪魔だった」
「……あやは、味方だったのか?」
「そう思いたい。
けど――私の中に、まだ彼女の“記憶”がある。
だからきっと、私ももう、“普通の人間”じゃない」
⸻
◆
それから1年後、霧島先生が自宅で変死したという報せが届いた。
部屋の壁には無数の爪痕、そして、血で書かれた一文が残されていたという。
「四人目が来た」
この話は怖かったですか?
怖いに投票する 10票























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。