青く歪な体躯を持つ物体が近づいてくる。
その顔に類する部分にある真っ赤な口が開き、俺の名前を呼んだ。
「の⚫︎太君」と。
俺はなんとか冷静に、今自分が置かれている状況を整理する。
今、俺の目の前にいるには…、
その見覚えのある物体は…、
記憶を辿る事などしなくても、容易にその名を思い出せる。
それは、その姿は、間違い無く、ドラ⚫︎もんだった。
顔に類する部分の中央には、真っ赤な円形の鼻がある。
(なんでロボットの癖に鼻があるんだよ ! 何に使うんだよ!)
首に吊るされた黄色い鈴は10cm以上ある。無駄に大きい鈴だ。
(ネズミ除けという設定だが役に立った所を見たことない!)
両腕の先にある、真ん丸い手。
(その手で、どうやって襖を開けたんだ?)
不自然なサイズの、楕円形の足。
そいつが移動する度に、到底足音とは思えない、チャラチャラとした音が鳴る。
(あれでどうやって歩くんだ? あの音はどこからするんだよ!)
(サ⚫︎エさんのタ⚫︎ちゃんかよ!)
(何より、あの身体バランスで、どうやって立っていられるんだ? 頭、デカすぎるだろ!!)
…いや。いやいやいやいや。ツッコミは後回しだ!
え…っと…。
今、このドラ⚫︎もんは、俺をの⚫︎太君と呼んだ。
俺は自分の身体の状態に把握に努めてみる。
…背が低かった。子供の身長だ。
眼鏡を掛けている。
普段の俺は、眼鏡はしていない。子供の頃から使ったことはない。
黄色いトレーナーと、紺の半ズボン。
…どうやら、俺は本当に『の⚫︎太君』らしい。
じゃあ、俺は誰なんだ?
俺はの⚫︎太君。じゃあ、の⚫︎太君は俺なのか?
今、俺は俺を失っている。じゃあ今俺はどこにいるんだ?
いや。いやいやいやいや。モラトリアムかよ!
…まさか、さっきのピンク色のドアは…【どこでもドア】だったのか?
玄関のドアかと思ったら、それは【どこでもドア】で、俺はそのドアを抜けてドラ⚫︎もんの世界に来てしまったとでもいうのか?
そんなバカな!
…そうだ。これは、夢なんだ! 夢なら全て辻褄が合う。
きっと、仕事に疲れて妙な夢を見ているんだ…。
夢よ、夢よ!覚めろ覚めろ!!
混乱の極みの中。俺はそう念じ続けた。
…念じてみたが、いっこうに目の前の景色が変わることもなく、目の前の猫型ロボットも消えることはない。
「なにやってるんだい? の⚫︎太君…。君は本当にバカだなぁ。」
(うるせぇ!)
聞き覚えのあるイントネーションで、ドラ⚫︎もんが俺に話しかけてくる。
と、ドラえもんの言葉に反応してか、の⚫︎太君…俺の口が勝手に開き、ド⚫︎えもんに返事をする。
「そ、そうだ! ド⚫︎えもん。 ジャイ⚫︎ンが僕を虐めるんだよ…。なんとかならないかなぁ…。」
「何だそんなことか。いつものことじゃないか。よし、僕の秘密道具で、ジャイ⚫︎ンを懲らしめよう。」
過去、テレビの中で何度も見たお馴染みのやりとりを、ドラ⚫︎もんとの⚫︎太君(俺)はしている。
…どうやら、俺はドラ⚫︎もんの世界で、の⚫︎太君になった夢を見ているようだ。
なら、怖いことはない。
そのやりとりを通じて、俺は少し安心した。
所詮、毎回1話15分のストーリーだ。
どうせ、調子に乗ったの⚫︎太君が秘密道具を使って暴走して、ドラ⚫︎もんが解決して、結果、の⚫︎太君が懲りる展開。
そんなお馴染みの物語で終わるはずだ。
(…あぁ、二時間尺の映画版じゃないですように)
俺は心でそう祈る。
「じゃあ、秘密道具を出すよ。【スモールライトォ!】」
スモールライト!
解説不要の超有名な秘密道具キター!!
…だが、スモールライトを使って、どうしようと言うんだ?
「の⚫︎太君。君の身長はいくつだい?」
「え? 140cmだよ。」
「ジャ⚫︎アンの身長は?」
「えーっと、確か157cmだったかな?」
「その差は?」
「うーん。解らないや。」
「君は本当にバカだなぁ。17cmの差だよ。そんな計算、小学生低学年でも出来るよ?」
「はいはい。で、身長がどうしたんだい?」
「うん。つまり、このスモールライトでジャ⚫︎アンを小さくしてしまえば、君でも勝てるはずさ。」
「なるほど!さすがドラ⚫︎もんだ!」
「ヒーヒヒャハハハハハハ。」
(…今のはドラ⚫︎もんの笑い声か? リアルで聞くと、文字に出来ない怖さがあるな…)
「で、どれくらい小さくすればいいかな?」
「ん? 君でも勝てるぐらいにするんだから、3cmぐらいでいいんじゃない?」
(さ、さんせんち?)
(小さくしすぎだ! 虫じゃないんだぞ!)
「さすがに小さくし過ぎじゃないかな?」
俺の思考が読んだかのように、の⚫︎太君がツッコミを返す。
「そうかなぁ。解ったよ。120cmくらいでいいんじゃない? 小学一年生男子の平均身長だよ。」
(…そうだよ。それぐらいでいい)
こうして、の⚫︎太君は、ドラ⚫︎もんの秘密道具【スモールライト】で、お馴染みの空き地にいたジャイ⚫︎ンの身長を小さくしてから、殴りつけ、仕返しを果たすのだった。
その光景は、まさに赤子の手を捻るかの如く。
鮮やかにの⚫︎太君は、ジャイ⚫︎ンに勝利するのであった。
の⚫︎太君の拳…俺の拳に、幼い子供(の背丈のジャイ⚫︎ン)を殴りつけた感触が、リアルに残る。
俺にはそれが気持ち悪かった。
























カオスで草wwww
妙にリアルなのが逆に怖い
いい話やんwww