私は「誰ですか?誰ですか?」と何度も聞きました。
医師は「後遺症でしょうが時間が経てば大丈夫だと…」みたいな事を
母らしき女性や妹らしき女の子に励ますように言っていました。
「今夜は母さんずっといるからね」と言われました。
私は寝たままいろいろ検査を受け、その際医師に
「僕は○○でもないし、母も違うし妹もいません」と言いました。
しかし医師は「う~ん…記憶にちょっと…う~ん…」と首を傾げていました。
「○○君はね、二年近く寝たきりだったんだよ。だから記憶がまだ完全では
ないんだと思うよ」と言われました。そう言われても、私はショックな
感情すらありませんでした。
現実にいま起きている事が飲み込めなかったのでショックを受ける事さえ
できなかったのです。医師は言葉を選びながら、
私を必死に励ましていました。
母らしき人は記憶喪失にショックを受けて号泣していました。
私は「トイレに行く」とトイレに行きました。立ち上がる際に足が異常に重く、
なかなか立ち上がれずにいると、医師や看護婦や妹らしき人が
手伝ってくれました。
トイレに行くと、初めてあの夜の事を思い出しました。
不思議ですが、目覚めてからの数時間一度もあの肝だめしの事は
思い出さずにいました。トイレがすごく怖かったのですが、
肩をかしてくれた医師や付いてきた母や妹がいたので、中に入りました。
用を足したあと、鏡を見て悲鳴をあげました。
顔が私ではありませんでした。まったくの別人でした。
覚えていないのですが、その時私は激しいパニックを起こしたらしく、
大変だったらしいです。
その後は一ヶ月近く入院しました。私は両親と名乗る男女や、
妹を名乗る女の子や、見舞いに来た自称友達や、
自称担任の先生だったという男性らに「僕は○○じゃないし、あなたを知らない」
と言い続けました。
AやBの事や、自分の過去や記憶を覚えている範囲で話し続けましたが、
すべて記憶障害、記憶喪失で片付けられました。Aなど存在しない、
Bもいない、そんな人間は存在しないと説得されました。
しかし、みんな私にとても優しく接してくれました。

























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