ここ数ヶ月、毎晩のように同じ夢を見る。
場所は知らない高層ビルの屋上。周囲に柵も壁もない。
真下を覗くと、街がミニチュアみたいに広がってる。
そして俺は、決まってそこから――落ちる。
夢なのに、風の音や内臓が浮く感覚が生々しくて、寝ても疲れるばかりだった。
でも、そのうち慣れた。人間の感覚って不思議なもんだなと思う。
落下の最中、ビルの壁に映る自分の姿が見える。
毎回その顔が、にやけてるんだよ。落ちてるのに、笑ってる。
変な夢だと思いながらも、決まってその瞬間に目が覚めた。
……いつもは。
*
ある夜、夢の中で背後から声がした。
「やっと順番がきた」
驚いて振り返る間もなく、また落ちた。
でもその夜は、なかなか目が覚めなかった。
落ちる時間が、異様に長い。何かが違う。
必死に目を開けようとした瞬間――視界が白く弾けた。
*
目が覚めると、朝だった。
体が軽い。寝汗もかいてない。
むしろ久々にすっきりした目覚めだった。
その日から、俺の調子はよくなった。
頭も冴えてるし、朝もすぐ起きられるし、食事もうまい。
「最近のあんた、まるで別人みたい」
母さんにそう言われて、俺は笑った。
“変わった”んだと思った。良い方向に。
でも、ある日ふと気づいた。
スマホのロックが、なぜか開かない。
何度も打ち込んでるパスコードが、ことごとく弾かれる。
指紋認証も顔認証も、反応しない。
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