奇々怪々 お知らせ

不思議体験

朧紙さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

無言投函
短編 2025/06/28 16:14 1,373view

ある時期、ポストが変だった。
うちのポストはマンションのエントランスに並んでいる集合タイプで、鍵付きの小さな扉がそれぞれの部屋番号に対応している。私は302号室に住んでいる。

最初に気づいたのは、5月の終わり頃だった。

仕事帰りにポストを開けると、中に何も入っていない──ように見えたが、指を奥に差し入れると、何か紙のようなものに触れた。
取り出してみると、それは普通の白い紙だった。折り目もなく、罫線も何もない、まっさらなコピー用紙。裏も同じく白紙。手紙というわけでもない。

でも、妙に湿っていた。
紙の端だけが、にじんだようにしっとりと濡れていた。

その時は「誰かのチラシか何かが紛れたのだろう」と思って捨てた。だが、その白紙は、次の日も、その次の日も入っていた。

しかも、毎回少しだけ湿っていた。
そして必ず、ポストの奥に折れずに突っ込まれているのだ。

私はマンションの管理会社に連絡し、いたずらの可能性もあるので防犯カメラの映像を見せてほしいと頼んだ。
すると、管理人の男性が少し困ったような顔で言った。

「お宅のポストには、誰も入れてないんですよ」

映像を確認すると、実際に誰かが紙を投函している映像はなかった。
郵便配達員がチラシや手紙を入れる様子は映っていたが、白紙らしきものを差し込んでいる瞬間はない。
しかも私が帰宅する少し前に映像は終わっていたのに、私が到着してポストを開けると中に白紙があった。

それからというもの、私は毎日ポストを開けるのが怖くなった。
白紙は次第に数を増し、1枚、2枚、3枚と重なっていった。
すべて、わずかに湿っている。

ある日、耐えかねてそれらをビニール袋に詰め、近所の神社に持っていった。

神主らしき人に「これ、気味悪くて……」と相談すると、彼は袋を開けもせずに言った。

「これは……届いてますね」

「え?」と聞き返すと、彼は何も答えず、ただ「処分しておきます」とだけ言った。

その日からぴたりと白紙は止まった。
ポストは元通り、チラシと請求書とたまのDMしか入らない、いつものポストになった。

でも、ひとつだけ気になることがある。

止まった“次の日”に届いた封書──それは差出人のない真っ白な封筒だった。

中には、たった一枚の紙。
今までと同じ白紙だが、端っこにだけ、インクでこう書かれていた。

「受け取った。次はあなたが入れる番です」

1/2
関連タグ: #手紙#神社
コメント(1)
  • その発想で不幸の手紙とかチェーンメールが止まらなくなるのだと思う。

    2025/06/28/23:42

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。