10年ほど前、宮田さんが鎌倉の漁港で釣りをしていたときに体験した話である。
釣りを始めた理由は、仕事のストレスを解消するため。ひとりでボーッと海を眺めている時間はとても心地が良く、仕事の種類も人生も全く違う釣り仲間が増えて行くのが新鮮で楽しかったという。
「釣れてるか?」
毎回、釣れているかと声をかけてくるとある老人は、宮田さんにレクチャーをし始めることもあった。だがその老人は、自分で釣りをすることはなく堤防に座り、毎度ただ海を眺めるのみ。
「自分はやらないのか」と、少し鬱陶しくも感じていたが、何度も顔を合わせるうちにいつしか仲良くなっていった。
「家はこの近くなんですか?」
そういえばこの老人についてほとんど何も知らないなと聞いてみることに。すると、こんな話をしてくれた。
「ここに毎日来てたんだ、365日。若い頃、お付き合いしていた彼女がいてね。でも、俺の同級生と結婚したんだ。俺は大した稼ぎもなかったから身を引いたんだよ。船宿からの縁談で彼女の親も喜んでなぁ」
ドッ、ドッ、ドッという音と共に、一隻の漁船が港を出て行くところだった。
「アイツだよ」
と指をさすと、船に乗っている男性がこちらに手を振ってくる。
「でも姑からいじめられてなぁ。嫁に入ってからなかなか子供ができなかったんだと。もっと話を聞いてあげればよかったんだが、ここで身を投げて死んじまったんだよ。それから毎日会いに来てやってんだ。さて、今日は彼女の機嫌が悪そうだから帰るとするか」
老人は「またなぁ」と言い帰って行った。
宮田さんは「また!!!」と返事をする。
これが、最後の会話になった。
とある日曜日、同じ場所で釣りをしていると
「釣れてるかぁ」
と声をかけられる。
あの老人が来たのだと思い振りかえるが、誰もいない。気のせいかと思いしばらく釣りを続けていると、他の釣り人が来て
「先週、あのじいさん。海の帰りに家の前で倒れてそのまま‥」
と告げてきた。
突然の真実に驚きを隠せなかった。
先程、たしかにあの老人に声をかけられた。気のせいと言われたらそうだったのかもしれない。ただどうしても、空耳だとは思えなかった。
何が原因で亡くなってしまったのか聞くことができなかったそうだ。
近くで話している人。先週まで元気よく話していた人。突然の別れを迎えてしまうことがある。大切なことを伝えられていない人がいるならばどうか、声をかけて頂きたい。
大袈裟かもしれないが筆者はこの話を聞いて、最近話せていない方々などにしっかり感謝を伝えていこうと決めた。
いつか、伝えられなくときがきてしまうかもしれないから。
























おもろい!
怖いけどなんかいい話だったなぁ・・・
有野優樹さん頑張ってください!
自分は逆の考えだな。
フラグになっちゃいそうだし。
作者の有野です。みなさん、コメントをありがとうございます。またこれからもたくさん投稿していきますので、よろしくお願い申し上げます。
切ないお話ですね‥‥‥。