「……行こう」
H子は一言呟いて歩き始めた。一瞬で方向を見失ってしまった僕達には、その後へ従っていいのかも分からなかった。
相変わらずふうふう言いながら、H子はゆっくり足を進めていく。僕達は置いて行かれないように戸惑いながらついて行った。
さらに二十分ほど登っただろうか、急に足を止めたH子が体の向きを左に変えた。
「……こっち」
「そっち、道ねぇよ」
「なぁ、迷ってるんじゃない?」
みんな不安そうだ。H子は肩で息をしながら、ボソッと言った。
「テルばあちゃんがあっちだって言ってる」
その言葉に全員が固まった。
「テルばあが?」
僕はちょっと怒りながら問い質した。
そんなはずはない。
だって、今回親戚が集まっているのは、他ならぬテルばあの葬式のためだったんだから。
H子は道のない木々の中へ向かって歩き出しながら頷いた。
みんな閉口したままついて行く。
そう言えばH子は霊感があるなんて言っている変なやつだ。もしかしたら、本当にテルばあの声が聞こえているんだろうか?
「H子、本当にそっち行っていいのか? 危ないんじゃないか?」
「平気」
それだけ言って、H子はまたふうふう言いながら歩いて行く。黙ってみんなはついて行くが、また急にH子は足を止めた。
「……」
追いついて様子を窺うと、進行方向を見ていたH子は顔を強張らせて立ちすくんでいた。
「なぁ、どうした?」
「……なんでもない。ここから、向こうだって」
方向を変えてH子は歩き出した。H子が見ていたのは何なのか、僕は気になってジッと目を凝らしてみた。
(ん……?)
やけに暗いような気がしたが、それだけだ。木の本数が増えているから太陽の光が届かないんだろう。
そう納得して視線を逸らした。
――それから一時間ほど道なき道を歩いただろうか、不意に足元がしっかりした。
「あ」
思わず声が出た。木々の中からするっと踏み固められた獣道に出て、顔を上げればちょっと先にアスファルトの道路が見える。
「下りれたぞ!」
いとこ達がわぁ、と歓声を上げる。疲れているはずなのに、その時だけはみんな元気が戻ったようだった。






















入っても良い山なんて言われたら入るよな