息を乱しているH子はちらりと山の方を振り向いて、黙って道路の方へと歩いて行った。
僕は開けた視界でそこがどこなのか判断した。
「……〇島?」
そう、山へ入った場所からは真反対の所だった。僕達は山をすっかり通り越えてきたことになる。
それでも、ここから家に帰るのは簡単だ。ちょっと距離はあるけど、道なりに歩いて行けば帰ることが出来る。みんなで探検の事をわいわい話しながら家に向かって歩いて行った。
家に帰り付いた頃にはすっかり薄暗くなってきていた。僕は最年長者として母ちゃんに叱られた。年下のいとこ達をつれて遅くまで遊んでいたことを咎められたのだ。
「まったく、あんた達どこで遊んでたの?」
「入ってもいい山……」
僕の言葉に、母ちゃんは目を丸くした。
「あんた、なんであそこ行ったの!?」
「え? だって入ってもいいんだろ?」
「馬鹿、あの山は大人でもロープとかで目印をつけながら入る山なんだよ? 迷ったんじゃないだろうね?」
「迷ったけど、H子がなんか道知ってた。テルばあが言ってたとか」
僕がそう言うと、母ちゃんは一瞬動きを止めた。その後にため息を吐く。
「ばあちゃん、H子のこと可愛がってたからねぇ……放っておけなかったんだねぇ……」
それで僕はお説教から解放された。
三日前に葬式をした広い客間に向かうと、H子がテルばあの遺影を見上げてぼうっとしていた。
「H子」
「ん?」
「テルばあ、本当にいたのか?」
「……まぁ、うん」
H子は歯切れが悪い。だから、もう少しだけ踏み込んで聞いた。
「お前、途中で急に止まっただろ? あの時、何か見たのか?」
「……」
答えていいのか迷っていたのか、少し黙り込んだH子はぽつんと言った。
「あのまま進んだら変なのがいるって、テルばあちゃんが教えてくれた。ここまでは入ってもいいけど、この先はダメだって。何か、真っ黒な変なのがちょっとだけ見えた」
「え?」
「最初に帰り道が分からなくなったのも、それのせいだって」
「……」
「ねぇ、Tくん。あの山、本当に入っていい山なの?」
H子が僕に問い掛ける。


























入っても良い山なんて言われたら入るよな