夢に会いに来る
投稿者:みなみなさん (1)
短編
2021/03/24
09:15
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祖父の家に到着して、祖母に了解を得て物置を開ける。
祖母も物置はほとんど開けたことがないらしい。祖父のテリトリーだったようだ。
錆び付いた引き戸をなんとか開けると、たしかに棚があり、その一番上にはしっかりとした木箱があった。
「これだよ!夢に見た箱だ!」
父は木箱をおろし、祖母も中身を見たいというので家の中で開ける事になった。
おそらく祖父手作りの木箱だろう。しっかりと重厚感のある箱で、埃まみれの物置の中でも宝物のように見えた。
父がゆっくりと蓋を開けると、中には大きな鉋(かんな)が入っていた。
「親父の鉋だ」
一緒にタンスを作った事がある。その時に、良い鉋を買ったんだって自慢げだった。
父には兄弟が何人かいるが、日曜大工をするのは父だけで、結婚してからもたまに祖父と一緒に何かを作っていた。
「俺にくれるって言いにきてくれたんだな」
父は目を赤くして泣いていた。
祖母に鉋をもらっても良いかと聞いたら、じいちゃんがやるって言ったんだから、もらっていきなさい。
と、快くOKしてくれた。
鉋を抱えて家に帰ると、母が笑顔で待っていた。
「どうだった?」
父が興奮気味に夢を見た話しから、事の顛末を話すと、母はにこにこしながら
「おじいちゃん、よかったね」
とつぶやいた。
父は良くわかってなかったかもしれないが、自分はなんだかその場に笑顔の祖父がいるような気がした。
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素敵な御話ですね。心が温かくなりました。