ある日、ユキヒロは偶然、メグミの日記を見つけてしまった。開いてはいけないものだと分かっていたが、どうしても気になって、ページをめくった。
そこに書かれていたのは、ユキヒロがこれまで知っていたメグミとは、全く異なる内容だった。
「…ユキヒロの肌は、本当に柔らかくて、いい匂いがする。毎日、少しずつ、もっと深く、ユキヒロを味わいたい…」
「…ユキヒロの心臓は、どんな音がするんだろう?きっと、力強い鼓動を刻んでいるに違いない…」
「…私は、ユキヒロの全部になりたい。ユキヒロの肉になり、血になり、骨になり…」
日記の文字は、読み進めるごとに狂気を帯びていった。ユキヒロは、全身から血の気が引くのを感じた。これは、愛ではない。これは、捕食者の記録だ。
その夜、メグミはいつも通り、ユキヒロの腕の中に潜り込んできた。ユキヒロは、彼女の温もりを感じながら、背筋が凍るのを感じていた。
「ユキヒロ…大好きだよ」
メグミの声が、ユキヒロの耳元で囁かれた。その声は、甘く、しかし底知れぬ闇を孕んでいた。
「…ユキヒロの全部、私にあげるね…」
ユキヒロは、恐怖に目を見開いた。メグミの腕が、ユキヒロの身体に絡みつき、次第に力を込めていく。息苦しさが、ユキヒロを襲った。
メグミの口元が、ユキヒロの首筋に触れる。湿った感触。そして、鋭い痛みが走った。ユキヒロは、必死にもがいたが、メグミの力は想像を絶するものだった。
意識が遠のいていく中、ユキヒロは、メグミの瞳が、満月のように大きく見開かれているのを見た。その瞳の奥には、狂おしいほどの飢えと、そして、どこか満たされたような、異様な光が宿っていた。ムスコが震えた。
身体から、何かが吸い取られていくような感覚。それは、愛の形をした、しかしあまりにも恐ろしい捕食だった。
翌朝、ユキヒロの部屋は、普段と何も変わらない様子だった。散らかった雑誌、読みかけの本。しかし、そこにユキヒロの姿はなかった。
メグミは、いつものようにキッチンに立っていた。鼻歌を歌いながら、手際よく朝食を用意している。今日のメニューは、ユキヒロが好物だった、肉料理だった。
プレートに盛り付けられた肉は、ほんのり赤みを帯び、食欲をそそる香りを漂わせている。メグミは、満足そうに微笑んだ。
「…さあ、召し上がれ、ユキヒロ」
そう言って、メグミは、空になったユキヒロの椅子に、そっと目を向けた。
彼女の口元には、かすかに血の跡のようなものがついていた。

























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