しかし、私を奈落へと追い落したその怨念は、私にそんな細やかな希望さえ抱くことを許さなかった。
昨晩のことだ。
深夜静まり返った病室で、眠りに落ちようとしていると、突如幻肢にむずむずとした感覚が走った。
それは腕の血管の中を、無数の虫が這いまわるような悍ましい感覚で、不快感に刺激された脳が一気に覚醒した。
驚いた私はナースコールに息を吹きかけようとしたが咽喉が詰まるようでうまくいかない。
恐怖から脱するべく必死の思いで藻掻くうちに、私の幻の腕が意志とは関係なく持ち上がっていくのを感じた。
肘を90度に曲げ停止した腕は、そこから弾みをつけたように私の首をめがけて襲い掛かったのだ。
見えない五指が頚部を圧迫する。
爪が皮膚に食い込み、頚椎が軋む音を聞いた。
抵抗しようにも私の腕はもうそこにないのだ。
あれほどに悲惨な体験をして尚、目前の死は恐ろしく私は必死に抵抗を試みたが、人間離れした力の前に成す術もなかった。
急速に世界が遠のいていく――――――
意識を失う直前、恐らく体が痙攣を起こしたのだろう、何らかの機材に足が当たり音を立てた。
その音に気付いた見回りの看護師が私のもとに駆け付けた時、私は白目をむき泡を吐いて昏倒していたそうだ。
君がこのメールを読む頃、私はもうこの世にいないだろう。
今や私の幻肢は、私とは別の何者かの制御下にある。
幻の腕として現出した呪いは、今も私を絞め殺す機会をうかがっている。
私の残した一切合財は君が引き継いでくれ。
この文章をもってすべてを譲渡する。
=========================================
メールを最後まで読み終えた後も、なぜこんな気味の悪いメールを送ったのかその意図が読めなかった。
最後の血筋である私に、遺産を相続させ家を守ってほしいのだろうか。
それにしたってこんな意味不明なメールを送って寄こす意味はないはずだ。
考えても答えは出なかった。

























( ゚д゚)