一通の奇妙なメールを受信した。
送り主は、私の叔父だった。
叔父とはいっても、鬼籍に入った私の父と折り合いが悪く、家族ごと疎遠になっていたため、ほとんど会ったこともなかった。
伝え聞いた話では、地元を出てごく一般的な家庭を築いた弟(私の父)と違い、叔父は実家の家業を継ぎ事業拡大にも成功し、今や地元の名士と呼ばれる地位にあるらしい。
妻と二人の息子(私の従兄弟)と同居し、その長男は一流国立大学卒、次男も同大学に主席で合格と、すでに将来を有望視されていたそうだ。
嫉妬もあったのか生前父は兄の話をしたがらなかったし、父の死後、父方とは完全に縁が切れていたので、突然メールが来たことを意外に思った。
以下はその文面である。
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〇〇君
突然このようなメールを受け取り、いたく困惑していることと思う。
だが我が〇〇家の血を引く者はもう、私と君以外にはいない。
我々兄弟のことで、甥である君と長らく会えていないことは心より残念に思っている。
どうかこの独白を最後まで読んでほしいと願う。
3か月ほど前、私の家は全焼した。
夜中の出来事で、火災に気づくのが遅れた私たちは、逃げ出すことが出来ず妻と二人の息子を失った。
私自身も重度の火傷を負い、奇跡的に一命を取り留めたものの、両腕を欠損してしまった。
警察の捜査では、特定には至っていないが放火の可能性も視野に入れているという。
事故から1月ほど経って意識を取り戻して以降、何度も聴取を受け、犯行を起こしうる人物に心当たりはないかと尋ねられたが、思い当たる対象が多すぎてを容疑者を絞ることが出来なかった。
一代で築き上げた事業を拡大するにあたって、多くの者から恨みを買っていることは事件の起こる前から自覚していた。
目覚めてからは地獄の日々だった。
全身の痛みは言うに及ばず、家族と身体を失った喪失感、自らの過去の行いに対する悔恨が常に心身を蝕み続けるのだった。
そんな絶望の中を彷徨い続けながら、さらに1月ほど経った頃、不思議な感覚に見舞われた。
本来腕があるべき空間に、今となっては感じるはずの無い痛みを覚えるようになったのだ。
それは幻肢という現象で、肉体の欠損後しばしば起こりうることであるらしい。
最初は痛みだけだったものが、次に皮膚に物が触れる感覚が蘇り、しまいには実体のないその腕を動かせるような錯覚を覚えた。
結局はこの見えざる手を動かしてみたところで、何一つ成すことは出来なかったが、それでも全てを失った私にとって、それは一縷の希望であるように思えた。

























( ゚д゚)