これは私が小さい頃、本当にあったらしい出来事です。
正確には、私自身にははっきりとした記憶がなく、後から母に聞かされた話です。
私が3歳のある日のこと。
まだ保育園にも通っていなかった頃で、近くの公園や神社に母とよく散歩に行っていた時期でした。
その日、母がほんの数分だけ目を離した隙に——私は忽然と姿を消しました。
家の前で一緒に遊んでいたのに、気づいたときにはもういなかったそうです。
呼んでも返事はなく、近所の家にも見当たらず、母は半狂乱になって探し回り、警察に連絡しようとしたそのとき——
家の門の前に、私がぽつんと立っていたそうです。
ニコニコしながら、「ただいまー」と言って。
「どこに行ってたの!?」と母が問い詰めると、私はこう言ったらしいんです。
> 「やさしいおにいちゃんが、おうちまでつれてってくれたよ」
でも、私が連れていかれたはずの道は、交通量も多く、子ども一人では危険な場所でした。
しかもその日は誰も近所で私の姿を見ていなかったといいます。
母は不思議に思い、「そのお兄ちゃんって、どんな人?」と聞きました。
すると、私は少し考えるようにして、こう言ったそうです。
> 「へんなかお。あたまがながくて、くろいふく。へんなことばでしゃべってた」
母はゾッとしたそうです。
そして私が最後に言った言葉に、背筋が凍ったと言っていました。
> 「でも、だいじょうぶ。あのひとはひとじゃないから。まもってくれただけだよ」
それ以降、私はその「お兄ちゃん」のことを話さなくなったそうです。
というより、まったく思い出せなくなった。
でもたまに夢の中で——
黒い服を着た細長い何かが、私の手を引いて歩いている光景を、今でもぼんやり見ることがあります。
そのときの空気は、なぜか「怖くない」んです。
むしろ、あたたかくて、安心してついていっていた記憶が、かすかに残っている気がします。
























子供のカンは鋭いね。