俺達10名の調査員は、カメラマンとリポーター二人1組でチームを作り、携帯電話で連絡を取り合いながら、町の調査を開始する。
まずは、道を歩く住民にラクガキについて尋ねる。
住民の返事は、「ああそういえばそんなものもあったねぇ。」
それは、あたかも既にラクガキが日常の景色と同化してしまっているかのような…。抑揚も感情も無い返事ばかりであった。
もちろん、そのラクガキを描いた人物が誰なのかも解らない。
次に、俺達はそのラクガキの分布について調査を行った。
ラクガキのある位置を実際に町の地図に書き込んでみたのだ。
ラクガキのある箇所。それを地図上で線で繋げてみた時。
解ったことがあった。
ラクガキは、町の中を円状に分布していたのだ。
…まるで何かを封印する『結界』のように。
地図が示す円環の結界。その中心にあるものは…。
『天文台』だった。
町のラクガキと、この天文台には何らかの関係がある?
スクープの予感がする。
地図に記された天文台に、俺は赤く丸印を書き込む。
町の探査を続ける中。
一人の若い男性が、ラクガキに向かい合っている姿を発見した。
暫くその男性の姿を観察していると、男性は手にしたトランシーバーで何かしらの通話をした後、肩に掛けていた鞄から塗料スプレーを取り出し、ラクガキに向かって噴射し始めた。
よく見れば、男性の目前のラクガキは薄汚れ消えかかっている。
ということは、この男性はラクガキの塗り直し…『補修』をしているのだろう。
「君は何をしているんだい?」
俺はその男性に尋ねる。
…今思えば…。
…それが決定的な間違いの始まりだった事を、俺は後に知る…。
「仕事の邪魔です。」
男性の返事は素っ気ない。
「まぁ、そんな事を言わずに。」
俺は財布から紙幣を取り出し、その男性に渡す。袖の下の効果は抜群だった。
男性は補修作業の手を止めた。
カメラが映像を捉える中。その男性は『ラクガキの補修をするバイト』についてを語ってくれた。
曰く、男性は町の天文台の関係者に雇われたバイトの一人である事。
曰く、自分達バイトの仕事は、町中の定められた場所にある『擬装絵』(ラクガキの事か?)の修善する事。
曰く、仕事のルールとして、定められた時間は絶対に厳守する事。
曰く、この仕事の意味に疑問を持たない事。
雇い主からは、それ以上の仕事の詳細は教えてもらえなかった。怪しい内容のバイトではあった。だが高給なバイトであり、この男性にとっては仕事を断る理由は無かったという。
世の中には、高額の怪しいバイト、所謂『闇バイト』もある。これもその類のものなのだろうか。
しかしその内容は、犯罪の片棒を担がされたり、命の危険に晒されたりと、碌でもないものばかりだとも聞く。
その時。
″…C地区担当…″
″…作業の進捗を報告せよ…″
男性の鞄の中のトランシーバーから声がした。
無機質な声だった。男か女かすらも解らない。
「え…。」
まずい。その瞬間。男性は自身の間違いに気付いた。
男性がトランシーバーを鞄から取り出した。
″…C地区担当…時間切れだ…″
無機質な声がそう告げる。
その瞬間。
ブヒュ…ン
奇妙な音がした。
同時に、ガシャンとトランシーバーが地面に落ちた。
その男性は。
俺の目前から。
突然、消えた。
妙な音と共に、男性の姿が、消え去った。
何が起こったんだ!
…そうだ!
カメラだ。男性が消え去る瞬間の映像を、カメラが捉えていたかもしれない!
混乱する俺は、カメラマンと共に、その映像を再生する。
再生された映像の中。そこには信じられないような光景が映っていた。
トランシーバーを手にした男性が消え去る瞬間。
コマ送りで再生された映像の中で。
その男性は。
空に、吸い込まれていった。
叫び声を上げる時間すら無く。
強烈な上昇気流に巻き込まれたかのように。
ジェット機の機内から外に放り出されるように。
男性は、空の彼方に消えていった。
…これは後に知る事だが。
数日後。その男性は、町から10kmほど離れた山麓で発見された。
死因は…。
高高度からの墜落死であった。
俺の目前で。『不可解な死』が、発生したのだ。

























いままでで一番怖かった!