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心霊

yukiさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

囚われた先輩 前編
長編 2025/04/10 19:51 8,886view
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崖下の岩に直撃した妻と息子は、即死だった。

落下の衝撃による損傷と長時間海水に晒された遺体は、無残な姿だったそうだ。

一週間ほど意識を失っていた彼が目覚めた時。

すでに家族の遺体は、荼毘に付され、灰と遺骨となっていた。

葬儀の時間…。喪に服す時間とは、愛しい者との最後の別れの時間であり、哀しみと決別する時間でもある。

ところが、彼は、その時間の一切を、奪われた。

結果、彼の中に残ったのもは、

哀しみに囚われ続ける自身の感情と、決別できない家族への愛情だけだった。

上司は、語ります。

きっと、彼の中では、家族はまだ生きているんだ、と。

彼の哀しみの時間は、まだ終わっていないのだ、と。

彼は、存在しない家族の幻影と、今も一緒に暮らしているんだよ、と。

それはきっと、彼が哀しみの感情から囚われなくなるその時まで続いていくんだ、と。

上司の話を聞いて、後輩の彼は暫しの沈黙の後、口を開きました。

「で、ですが、だからと言って、先輩の、あの、おかしな行動を放っておくんですか?」

後輩の彼は、そう上司に食ってかかります。

「…この件にはね、一つだけ不審な点があるんだ。」

後輩の彼の言葉を受けて、上司は話の続きを語り出しました。

…………

転落事故のあった岬はね、

普通なら転落事故なんて起きる場所じゃないんだよ。

故意にフェンスを乗り越えるような危険な行動をしなければ、ね。

そして、事故があった日、彼が妻の手を引いて崖に向かう姿が目撃されている。

もしかしたらあの日、彼は、日々のストレスに耐え切れず、家族と共に無理心中を決行しようとしたのかもしれない。

もしそうだとしたら、今の彼が抱える哀しみは、想像がつかないほど過酷なものだろう…。

だから誰も、その話には、触れないんだよ…。

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