「単語を読んだあと、意味のない質問をされることで、脳が勝手に関連づけちゃうんですって。だから、妙な違和感を覚える。まあ、心理的なトリックですよね」
聞いてもいないのに、後輩は淡々と語り続ける。
またいつものが始まったな……と思いつつも、仕方なく問いかける。
「確かに気味は悪いけど、そんな怖いって感じはしなかったな。それで、この実験がどうしたの?」
「実は、この実験を繰り返していると、ある奇妙なことが起こるんです」
後輩は、いつになく真剣な表情で語りはじめた。
「同じ人に、何度も同じ実験を繰り返すと……最後の質問、『後ろにあるもの』の答えが、どんどん歪んでいくみたいなんですよ」
「……歪む?」
「ええ。何十人もの参加者を集めて実験を行ったらしいんですけど……ほとんどの被験者は、最後の質問にたどり着くたびに“違うもの”を答えるんです。それも、どんどん抽象的になっていく」
「というと?」
「最初は壁とか棚とか、実際にあるであろうものを答えるんです。でも、繰り返しているうちに、“空気“とか、“気配“とかになっていく。そして……」
後輩は、微笑みながら続ける。
「最後はみんな“誰かがいる”って答えるんです」
沈黙が落ちる。
「一周目では、“誰かがいる”なんて答える人は一人もいませんでした。でも、二周、三周と繰り返すうちに、参加者のうち数名が、“何かの気配“とか“誰かがいる気がする”とか、そんなふうに答えはじめる。そして、最終的にはほとんどの人が、“絶対誰かがいる“と断定するようになるんです」
「……作り話だよね?」
「もちろん作り話だと思いますよ。そもそも、『あなたの後ろにあるものは何ですか?』って聞いているのに、“気配“とか“誰か“とか、モノじゃない抽象的なことを答えるのが不自然ですしね」
後輩は、薄く笑みを浮かべながらわたしに問いかける。
「でもせっかくなので、試してみましょっか」
「……?」
「ほら、1周目はさっきやったじゃないですか。なので2週目を試してみましょうよ。じゃあ読み上げていきますよ?白い部屋、軋む階段、ぐちゃぐちゃの笑顔……」
わたしは少し焦って、後輩の読み上げを静止する。
「いや怖いって!やめろよ!」
「ははは、冗談ですよ。先輩も怖がりだなぁ」
その場の空気が笑いに包まれた。
誤魔化すことができて、少し安堵したのを覚えている。
一息ついたところで、互いにまだまだ終わりの見えない仕事の続きに戻ることにした。
あのとき、背後に気配を感じたことは、まだ後輩には伝えていない。
























おもしろい
こわい