いつも通りにフランクに接してきた。
店長は元不良だと言っていたから
「家族」に嫌な思い出があるのかもしれない。
そう察した私はこれ以降
あの話を店長にすることは止めた。
しかし、あの時の店長の意外な反応が気になっていた私は
先輩に尋ねてみることにした。
先輩は店長の過去を教えてくれた。
店長は不良時代、改造車にハマっていたらしい。
真夜中に人気の少ない道路で
仲間と暴走行為に一晩中いそしむのが
毎日の過ごし方だったそうだ。
ある夜も店長はいつものように暴走に明け暮れていた。
朝方になり、仲間と解散して一人になった後
改造したスポーツカーに乗っていつも通りの道を帰っていた。
郊外にある暴走スポットからしばらく走り続けて
やっと地元の薬局の前の狭い交差点を通り過ぎた。
雨も土砂降りな上、店長は一晩中の運転で疲れていて
今が何時なのかもよく分からなかったそうだ。
そこからしばらく走り、踏切に続く広い道に出た時
他の車の少なさについ慢心し、いつもの暴走癖が出てしまった。
シフトを切り替え、雨で前もろくに見えないままスピードを70キロ・80キロとどんどん加速させていく。
路面を滑る自分の車のキュルキュルという音と
無力なブレーキのキキキ…という音を一瞬だけ聞き
目の前の小豆色の軽自動車にぶつかるその瞬間で
店長の記憶は途切れてしまったらしい。
後の裁判でこの事故の詳細を改めて聞かされた時に
初めて店長は自らの過ちを実感したそうだ。
電車も巻き込み、2名が被害者となった過失運転致死の前科は
店長を更生させるのに十分過ぎるほどの罰の重さだった。
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