死神の副業 大崎先生の場合
投稿者:グレートリンク (1)
第一話 奇妙な面会人
俺の名前は大崎恭二。死刑囚だ。歩行者天国で刃物を振り回して十数人を殺傷したため刑務所に服役している。
『大崎、面会人だ』看守が言った。てっきり今から処刑執行かと思った。
『初めまして。私は死神です。貴方の寿命を売ってください』
面会人は奇妙な奴だった。黒い腹掛けに羽織で、これで笠を被っていれば観光地でよく見かける人力車の車夫だ。
『俺には売れる寿命なんてないよ』
いつ処刑されるかわからぬ死刑囚だからだ。
『だから寿命を売って欲しいのです』
男は名刺を差し出した。そこには
『死神 雷神三郎』と書いてあった。
『死神なのか雷神なのかどっちだ』
『死神は職業で雷神は名前です』
どちらにも見えなかった。どう見ても人力車の車夫だ。
『どうして死刑囚だと寿命を売れる』
『自然死までの時間が寿命です。しかし事故や病気で突然死すると使わなかった寿命が無駄になります』
『なるほど。使わなかった寿命を回収しているわけだ』
『その通りです。生きているうちに契約すればあの世に連れて行くとき回収できます』
俺は頭をひねった。一応理屈は通っているがこんな話は聞いたことがない。
『しかし契約を結んでもお客様が寿命まで生きたら骨折り損です』
それで死刑囚のところに来たのか。俺なら確実に寿命までは生きない。
『寿命なんて回収してどうする?』
俺はこのおかしな話を信じかけていた。
『買った寿命は別の人に売ります。自然死の場合なら予備の寿命で延命できますからね』
俺は『プッ』と吹き出した。『死神が延命したら駄目だろう』
『寿命を買っても永遠には生きられません。例えばガス欠の車なら給油すれば動くけど、エンジンが壊れたらガソリンでは直りませんものね』
寿命はガソリンと言うわけだ。
『90歳の老人が100歳まで生きても私に不都合はありません』
死神にとって10年は大した時間でないようだ。
『それで寿命を売ったら俺にどんな見返りがある』
刑務所を出れない俺には今さら金をもらっても意味がなかった。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。