父が亡くなったときの話。
今のところ、俺は無事です。
上京して数年が経った頃、実家の母から父が倒れたと連絡が入った。
持病も無く、大きな病気をしたこともなかったので突然のことで頭が真っ白になった。
俺の実家は東北の方で車で約5時間程かかる。
俺は抱えていた仕事を放り出してすぐ実家へと向かった。
しかし道中、母から父が息を引き取ったと電話が来た。
その後の実家までの道程のことはよく覚えていない。
病院に到着し父のいる病室へと向かった。
白いベッドに横になった父の顔は揺すったら起きるんじゃないかと思うくらい綺麗な寝顔だったのを覚えている。俺と母は声を上げて泣いた。
通夜は次の日の夜に行われた。
父は生前から慕われていたようでたくさんの親戚や友人が会いに来てくれていた。そんな光景を見て息子である俺も誇らしく思っていた。
時刻は21時を回り通夜も終わりの時間を迎える頃、俺と母は「寝ずの番」の話になった。
俺の家が属する宗派では身内が無くなったとき、寝ずの番というものを行う。
亡くなった人を部屋の真ん中に寝かせて、その横で線香と蝋燭の火を絶やさないように一晩中見守り続けるという儀式だ。
線香と蝋燭を絶やさないことで亡くなった人が周りの悪霊に取り憑かれないように守る意味合いが込められているという。
父も俺も兄弟はいなかったので母と2人で交代しながらやることになった。
通夜の後片付けも終わり23時を回った頃、俺は父の眠る居間へと足を運んだ。
蝋燭に火を灯し、線香をつけると暗かった部屋が少し明るくなる。寝ずの番では電気をつけてはいけないという決まりがあるため、頼りになるのはこの蝋燭だけだ。
蝋燭の火に照らされた父の寝顔を見つめながら楽しかった父との思い出にふけっていた。
厳しくも優しかった父、学校行事では仕事を休んでまでかけつけてくれるような父が大好きだった。
また一緒に飲みたかったなぁ…そんなことを考えていたときだった。
突然蝋燭の火が消えた。
風で消えたとかではない、本当に突然消えたのだ。
火の光りに目が慣れていたため、蝋燭が消えた瞬間何も見えない暗闇へと移り変わる。
やばいやばい…と暗闇の中手探りでライターと蝋燭を探していたとき、部屋の中で音がした。
ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…
何の音だ?手探りで見つけたライターと蝋燭を持ったまま俺は耳をすませる。
ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…
その何かはよく聞くと四角い部屋の周りを壁伝いに移動しているようだった。
今度はこの主人公が連れて行かれてしまうのか
最初の「今のところ、俺は無事です。」ってそういうことか