そして畳を擦るようなその音は足音、すり足のような音に聞こえた。
母かと思い、声をかけたが返事は無い。そもそも部屋の襖を開ける音は聞こえなかった。
その何かの正体を確かめるために蝋燭に火を灯した。
音はちょうど自分の真後ろを横切っていった、音の正体を見ようと顔を右に向けようとしたそのとき、金縛りになっていることに気づいた。
あまりに突然のことに俺は理解が追いつかなかった。金縛りなんてものは生まれてこの方なったことがない。本当に指1本動かせない。
音が右の壁を伝って俺の右斜め前に来たとき、唯一動かせる目をそちらに向ける。
和服を着た女だった。和服を着た女が部屋をすり足で歩き回っている。
その女は部屋を壁伝いに移動したあと、なぜか角で1度お辞儀をしていた。
すり足で移動しては角で止まってお辞儀、意味の分からない行為に俺の頭はさらに追い込まれる。
母はあんな和服を持っていない。つまり母では無い。そもそも部屋を開ける音すらしてないし、火が消えた途端急に聞こえ始めている。
そんなことを考えている間もその女は部屋の中を歩き回っている。
俺はそれが誰なのかを確認するためにお辞儀をした瞬間に顔へと目を向けた。
それを見た俺は心臓が止まりそうになる。
首が無かった。
母を呼ぶために叫ぼうとするが金縛りで声をあげることができない。逃げ出そうにも体を動かすことができない。
その間も女は部屋を歩き回る。4つ角にお辞儀をしながら。
俺は恐怖で意識が飛びそうになる。
目線を眠る父へと向けて出ない声で助けを求めたそのとき、足音が俺の真後ろで止まった。
そいつはまた深くお辞儀をして座る俺の耳元に顔を近づける。あるはずの無い顔を。俺の体はガタガタと震えている。
よく聞くと女は何かを延々とボソボソ呟いている。
ノイズがかかったようなその声は何を言っているのかはわからかった。
ふともう一度父の方へと目を向けた。
こちらを見ている。
正確には俺の左横にいる女を見ていた。
その顔は目を見開き口を大きく開けて目の前の恐怖に絶叫しているようにも見えた。
これは夢だ。悪い夢だ。
そう言い聞かせていると、女の声が鮮明になってきた。徐々に何を言っているのか聞こえてくる。
俺は理解した。
それと同時に俺の意識は薄れて行った。
次に目を覚ましたときには朝だった。横たわる俺に母は毛布をかけてくれていた。
母が交代にきたときに俺は線香も蝋燭も消えたまま眠っていたらしい。
やっぱり昨日のことは夢だったのだろうか…俺は母に昨日の出来事を話さなかった。
























今度はこの主人公が連れて行かれてしまうのか
最初の「今のところ、俺は無事です。」ってそういうことか