泣き声は僕の部屋から聞こえてきているのです。
そのままの姿勢で、息をひそめるように、聞き耳を立てました。
確かに僕の部屋からすすり泣くような女の人の泣き声が聞こえてきます。そればかりではありません。ときおり「ポト……ポトッ………」と、雨漏りのような音も混じるのです。
僕はそっと外に目をやりました。カーテンの隙間から見えるほかに、雨が降っているような気配はありませんでした。
僕の部屋で一体何が起きているのか、誰かいるのか……?
ドアを開けて確かめる気にはどうしてもなれなくて僕はふと、あの穴から覗いてみようと思いつきました。
畳の上を這うように、なるべく物音を立てないようにと気をつけながら、壁のそばまで行くと、
僕はそっと小さな穴に近づいていきました。そして、ゆっくりと覗いたのですが、そこは真っ暗でした。物音ひとつしません。
出る前に電気は全て消していたので、真っ暗で見えないのは当たり前かと、視線を外そうとした時、急に何か赤いものが動きました。
自分が寝ぼけているのかと、もう一度目を凝らすと、そこには赤く充血した目がありました。
全身を凍りつかせてしまうような冷たい目です。
「フフフフフフフフ……」
泣き声は急に笑い声に変わりました。
そして、こんな声が聞こえてきたのです。
「……ここにいたの…………? 早く……戻ってきて……」
その声と同時に、僕は気を失っていました。
翌日、僕はアパートを引き払いました。
それから数日後、僕と卓也は大家さんのところに行き、恐ろしい夜の話をしたのですが、
大家さんは妙に真剣な表情を崩す事はありませんでした。そして、話してくれました。
僕が住んでいた部屋には、数年前まで若い女性が住んでいたそうです。しかし、その人は数年前失恋し、風呂場で手首を切って自殺してしまいました。発見されたとき、部屋のあちこちが水浸しになっていました。
あの泣き声は、恋人だった男を恨んで彷徨っている女の人の声だったのでしょうか?
不思議で怖い…( ゚艸゚;)