僕が18歳の頃、アルバイトを始めたばかりで、お金もなく、念願の一人暮らしもできそうになかった時、友人の卓也が
「俺の住んでるアパートでめちゃめちゃ安い部屋があるから、引っ越して来いよ」
と話を持ちかけてきました。
今から思えば、おかしな話でした。まわりは家賃が二万五千円なのに、
その部屋だけは五千円だったのです。
やめておけばよかったのに、一人暮らしがしたくてたまらなかった僕は、気にもかけず、
その部屋に住み始めたのでした。隣は卓也の部屋でしたので、結構楽しく、
古いと言うことと、鍵が壊れていると言うことさえ我慢すれば、住むことはできました。
「ここに穴、開いてるぜ」
僕の部屋と、卓也の部屋の壁に、小さな隙間のような穴が開いているのを見つけたのは、卓也でした。夜遅く、仕事から帰った卓也が、電気をつける前に、僕の部屋から漏れているばかりで見つけたそうなのですが、何しろ、安い家賃でしたし、小さな穴位で気を使うような相手でもなかったので、大家さんに連絡することもなく放置していました。
とにかく古い建物ですから、そんなことを気にしていたのでは暮らしていけません。
ところが、1ヵ月ほど経って梅雨の時期を迎えると、大変なことになりました。
雨漏りです。どうやら雨漏りは、僕の部屋が1番ひどいらしく、卓也の部屋では大した事はないと言うことでした。
その日はいつも以上の大雨で、おまけに風が強かったものですから、天井からいくつもの水滴は落ちてくるし、窓の隙間からも雨がにじんできて、寝る所ではないと言う状態でした。雨と風の音でテレビのボリュームも上げなければならないほどでした。
僕は一晩だけ卓也の部屋に避難させてもらおうと、隣に行ってみましたが、あいにく留守です。携帯電話で連絡を取ったところ、仕事で朝まで帰らないといいます。
「いいよ。いつものところに鍵を置いてあるから、勝手に入って寝てくれ」
卓也はそう言って電話を切りました。
僕は、卓也がいつも鍵を入れている郵便受けの隅っこから鍵を取り出すと、部屋に入っていきました。その部屋は雨漏りの跡もなく、僕は布団を引っ張り出すと、安心して横になったのでした。バイトの疲れが溜まっていたのか、すぐに眠りに落ちていきました。
やがて、夜も更けたころになって、雨はやんだようで、静けさが戻ってきました。自分の部屋に帰ろうかとも思ったのですが、夜中に畳を拭いたり、雑巾を洗ったりするのも面倒なので、そのまま眠ってしまうことにしたのです。
そして、真夜中…。
僕は、ある音で目を覚ましました。初めは外から聞こえてくる風の音かと思ったのですが、耳をすませていると、そうでは無いことに気がつきました。
「ウ………ウウウ…………」
泣き声です。それは女の人の悲しそうな泣き声でした。
疲れているのに、その声は耳について離れず、眠るどころではなくなってきました。
そう思って目をつぶった途端、頭を殴られたようなショックを受けて、
僕はガバッと起き上がりました。隣の部屋……?
卓也の隣の部屋、それは……僕の部屋です。
不思議で怖い…( ゚艸゚;)