某駐屯地のポスト
投稿者:mod (1)
「Hさん、まずはボンネット開けて点検しましょう。」
あのポストの真ん前でKさんは懐中電灯を照らします。乏しい光の中、それでも確かな手つきでHさんはエンジン回りを点検します。KさんがHさんを見ると、その震える足がしっかりと濡れていました。Kさんはポストが気がかりでしたが、決してその方向を見ないようにしました。もし何かを見てしまったら、きっと正気でいられないと思ったそうです。
ただ、確実に気配がする。近い。息遣いすら聞こえそうなほど。視界の端に映るポストの黒い影が二人を覆うように伸びている。怖い、怖い、怖い。自分が狂えばきっとHさんは持たないだろう。見えない、聞こえない、感じない。
必死に、念じる。
「全く異常ありません…。」
Hさんの声。
「もう一回エンジンかけてみましょう。」
二人は再度車両に乗り込み、何度かキーを回してみたところ、ようやくエンジンはかかって無事巡察に向かい帰ってくることができました。
二人が当直室に帰るころには少し安心して、仮眠するためにベッドに入ります。一方で、Kさんにはあの不可思議な現象への疑問が浮かんできます。
なぜ、急にエンジンが止まったのか。しかもあのポストの前で。なぜ、Hさんほどの人が失禁するまでの恐怖を感じるような状況で冷静でいられたのか。どうして…。
思考を巡らせていると重い疲労感が眠気を誘ったのか、Kさんいつのまにか眠りにつきました。
翌日、Kさんの所属する整備部隊で昨日運行した車両は本格的な点検が行われました。ありとあらゆる点検を実施したものの、一切異常は確認されませんでした。
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