奇々怪々 お知らせ

心霊

きのこさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

神ではないもの
長編 2024/12/19 13:21 512view

 ——怖い……足が動かない……!

 どうしたらいいか分からずにパニックになりかけた時、突然後ろから、ドンっと押された感じがして、勢いよく畑に転がり落ちた。

「おい! 大丈夫か?」

 何も知らない父の驚いたような声が聞こえたが、急に動けるようになった私は、急いで家の方へ走った。途中で一度も振り向かなかったので、父がどんな顔をしていたのかは分からない。

 しばらくしても震えは止まらなかった。

 まるで高熱が出た時のように身体は力を失って、先ほど見たものが普通の霊ではないことが分かる。小屋の中にいたものには関わらない方が良いと感じたので、誰にも話さず、探検の後で興奮していたから何かいる気がした。と自分に言い聞かせた。

 あまりにも恐ろしかったので、全部気のせいだったことにしようと思ったのだ。

 小屋の中にいたものは、荒神様なんてまともなものではない。

 親戚が何人も怪我をしたり、病気になり、亡くなる人も出たのがよく分かる。

 あれは、絶対に関わってはいけないものだと思った。

 
 大人になった今でもあの時のことを、たまに思い出す。

 そして祖父は何故、荒神様として祀られていた黒い岩ではなく「小屋へ近づいてはいけない」と、言っていたのだろうと考える。

 もしかすると霊感がある祖父は、何かを知っていたのかも知れない。小屋に近づいていいのは祖父と、血の繋がりがない父だけだった。

 もし、あの時畑にいたのが父ではなく祖父だったら、私が小屋の入口の前に立つのを許さなかったかも知れない。

 人間という生き物は、楽しかったことや、嬉しかった気持ちよりも、嫌だったり辛かった記憶の方が残りやすい。とテレビで特集されていた。

 そして私は、生きているものを目にした時よりも、人ならざるものが視えてしまった時の方が、記憶に残りやすい。忘れたくても、おそらく永遠に消すことができない記憶だ。

 子供の頃は恐ろしさもあって、あの小屋で視た何かは気のせいだ。と自分に思い込ませたが、大人になってあの時のことを思い出す度に、ふと思う。

 気のせいならば何故、白っぽいベージュの着物を羽織った若い男性が、疎うとましいと言わんばかりの表情かおで私の方を見つめていた、と詳細に覚えているのだろうと。

 記憶はまるで写真のように、脳裏によみがえる。

3/3
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。