霊道
投稿者:きのこ (15)
明晰夢とは、寝ていて夢を見ている時、自分で夢だと理解している状態で見ている夢のことだ。私が明晰夢を見る時は8割方イヤな夢で、目覚めると大体、現実とリンクしていた。
夢の中で、着物を着たお婆さんに追いかけられて、足首を掴まれて引っ張られ、何とか目覚めた時には、足首に赤い手形があり、まだ足元には何かがいた。
鬼のような形をしたものに首を絞められて、起きる為に自分の手を噛んだら、手には咬み傷が。首は赤くなって、引っ掻いたような跡があった。
嫌な夢から起きられる。と分かった時は良い事だと思ったが、夢から目覚めることが出来なかったら、どうなるのだろう? と考えると怖くなった。
明晰夢の中でも1番多いのは、やはり寝転がった自分の周りをたくさんの人が歩いている夢だ。夢を見る度に、自分で夢だと分かるので起きていたが、目を覚ますとやっぱりうっすらとした人達が、自分の周りを歩いていた。
誰だって、そんな場所で寝たくない。
何度もその夢を見る内に耐えられなくなった私は、母に相談した。
「夜寝ている時に、周りを知らない人達が歩いていく」
理由は分からなくても、寝る場所を変えて欲しかったのだ。
すると母が、
「あそこは霊道だから」と、事もなげに言った。
「えっ……?」
『霊道』という、普段聞きなれない怖そうな言葉が出てきて、私は固まってしまった。
「霊道って、何?」恐る恐る訊くと、
「だから、死んだ人達が歩く道があるからよ。みんな、あんたが寝ている場所を通って、押し入れを抜けていく」
母は遠くを見ながら言った。
母はとてもヒステリックな人で、私が幼い頃の母の記憶は、怒鳴っているか、手を振り上げているかのどちらかだ。そんな母が、どこを見ているか分からないような目で、淡々と話す顔に恐怖を感じる。
母は、私の知らない何かを知っているようだったが、それ以上は教えてくれなかった。
ただ呆然と立ち尽くす私を、横目でチラリと見て、
「この話は、誰にも言ってはいけないの」
とだけ言った。
そして、なぜ霊道があると分かっていながら、そんな場所に寝かされていたのかは、今でも理解できない。
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