神戸市T区純喫茶【吹き溜まり】
投稿者:ねこじろう (149)
さっき確かに女は言った。
どうして私じゃダメなんでしょうか?と。
どういう意味かは全く分からないのだが、とにかく俺は彼女の今際の際の言葉を聞いたということになる。
急にゾクリと寒気を感じた俺はホームの喧騒を振り切り、早足で店に向かった。
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神戸市T区の私鉄駅近くでちんけな喫茶店をやっている俺。
その日は朝方にあんなことがあったこともあったせいか、店内は昼過ぎまで込み合っていた。
それからようやく午後2時過ぎ、
店内に静寂が訪れテーブル席の片付けをしていると、どこからだろうか何か誰かがボソボソ呟くような声が聞こえる。
━え、帰ってない客がいるのか?
焦りながら俺は辺りを見回す。
そしてハッと息を飲んだ。
店片隅の窓際席に誰かが座っているのが見えた。
いや、それは人というより人型をした影のようなシルエット。
その光景をにわかには信じられなかった俺は一旦ぎゅっと目を閉じ再び見ると、その時には誰もいなかった。
以前から店内にはたまにおかしな現象が起こっていた。
例えば突然壁を叩くような音かしたり、窓際席の辺りでボソボソという男の声がしていたり。
どちらと言うと霊感はあるほうだった。
霊感といってもあの世の者たちが見えるというようなホラー映画のような類いのものなんかじゃなくて、先にも述べた誰もいない店に一人でいるとおかしな物音や人の声が聞こえたりというようなものだ。
以前店のオーナーにこの土地の由来とかを尋ねた事があるが、とりたてて特別な過去があったということはないと思うと言っていたのだが、、、
もともとは三年前に脱サラしてから始めた店だった。
幼い頃から協調性に欠けた性分で、やはり会社の組織的な行動には最後まで馴染めなかったな。
大学卒業後都内にある某会社でどうにかこうにか15年頑張ったが、かつてからの夢だった小さな喫茶店のマスターになるべく40手前で退社し今ある物件を借りてから営業を始めたのだ。
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