家族の笑顔
投稿者:たち (8)
なぜなら、通り過ぎて行く車の車内では、パンクした車に残っているはずの家族が笑っていたからです。
しかも、全員同じような顔で大きく口を開けて爆笑していました。
真横を通り過ぎるとスローモーションだった動きが通常に戻り、車は走り去っていきました。
トンネル内で呆然とする、私と父。
そこで初めて、父も同じ光景を見たんだと感じました。
無言の時が流れ、
「とりあえず、行こう」と休憩所まで私をおぶって歩き始めました。
私は、何が起きたのか、何を見たのか、同じ顔をした家族の笑顔は何だったのか、考えていました。
「もしかしたら、パンクが直ってこの先の休憩所で待ってるのかも!」
「笑ってたのは、俺たちを見て、ふざけてたんだ!」
と勝手に解釈していました。
間も無くして、そんな幻想は打ち砕かれ、現実を突きつけられました。
休憩所に到着したが、車なんてない。
待っているはずの家族がいない。
何も考えられず、父の背中でうずくまっていました。
父は他の身内に連絡をし、迎えに来てもらうようにしてくれました。
数十分後に迎えが来てくれてからは記憶はあまりありません。
車に乗せてもらい、家族のもとに向かっている途中で寝てしまいました。
数十年後、身内で集まる時、たまにその話題が出ます。
父や他の家族はタヌキかキツネに騙されたんだと笑いながら話しています。
令和になった今の時代では考えられないような出来事でした。
みんなは笑って話をしてるが、私は忘れることはない。
同じ顔で、大きく口を開けて笑っていた、家族の笑顔を。
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