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不思議体験

骸梟さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

1時間52分
長編 2024/11/02 07:01 1,937view

これは私が寺の本堂に泊まった時の話。
私の母方の実家がある地域は、よくある田舎を体現した、本当に何もない所だ。…あぁいや、1個110円の安い・大きい・美味しいを体現したクッキーシュー出してるお菓子屋さん。あそこは他所に自慢できる。
まあそんな事はさておき、私は母からお寺さんへ自分の代わりに、農作物のお裾分けも兼ねた挨拶に行ってほしいとお願いされた。
ずっしりとしたビニール袋を助手席に乗せ、軽自動車でやっと入れる細い山道を駆け上がっていく。対照的に母は今頃、コーヒーの一杯でもいただいているんじゃなかろうか。

祖母が教会の神父さん、俗に言う茶飲み友達の所に出掛けており、送迎に向かうのだと聞いていた。実家は神棚に仏壇をダブルで置いてる割には毎週教会に礼拝にも行くし、ある意味日本人らしい日本人だと感心すら覚える。
「帰ったら夕飯は馬刺出すから楽しみにしといで」と言う母の言葉を思い出す。ついつい漏れる鼻歌が林道を抜けた頃、お世話になっている見慣れたお堂が顔を覗かせた。
「住職さんの車は…あるな、よし。」
自身の軽を止めた近くに、モスグリーンのミラトコットが止まっている。その様子を確認した私はまず、本堂から少し下った先にある母屋へ挨拶に向かう。生け垣の向こうには一般的な平屋の一軒家が建っており、デフォルメされた犬が寝転ぶ玄関マットが、歓迎の眼差しを向け私を待っていた。
ピン…ポーンという気の抜けたチャイムの後、パタパタと小走りで玄関に近付くスリッパの音と「は~い」という女性の声が届く。
「あら~崇正君、久しぶり!髪型変えたの?一段とむしゃのよか男の子になったんじゃないかしら。」
人の良さがにじみ出る可愛らしいえくぼを作り私を出迎えてくれたのは、住職の奥さんだ。
「そう言う奥さんこそ、変わらずべっぴんさんで。はいこれ、極早生なんですけどよければ。」
「またまた~、こんなに?ありがたいわぁ」なんて挨拶の流れで蜜柑を渡しつつ、去年のお盆ぶりに会った事もあり、しばらく軽い世間話を楽しむ。

「あの人今は本堂で写経を教えてるのよ、呼んで来た方がいい?」
「いえいえ、流石にそこまでご足労おかけするほどではないですよ。納骨堂で祖父に手も合わせたいですし、これくらいで失礼します。」
見送りのため門前で手を振る奥さんに頭を下げ、本堂横の納骨堂までの勾配のある道程を、のっしのっしと重力に合わせ踏み締めるのだった。

一辺5m程の正方形の木造建築。
ギッシリと内部の壁に沿って遺骨の納められている空間からは、染み付いた線香の匂いが漂う。少し薄暗い土間の室内にチャッカマンの軽いハンマーの音が2度程響き、やがて線香の匂いがまた少し強くなった。

───にぃ

「ん?」
合わせていた両手と共に、閉じきっていた瞼を開く。葉擦れの音に混じって誰かの声が聞こえた気がする。
数秒耳を澄ませるが、特に続く声はない。猿か鹿でも降りて来てたんだろうと、特に気にとめることはしなかった。

納骨堂から延びる飛び石から飛び石へ。乾いた苔を軽く払い除けるようにケンケンと飛び越えながら、本堂の玄関に近付く。
膝丈まである上がり框の先には、複数段になった本堂の中身と、中央で数人の男女を指導する住職さんの後ろ姿が見える。カラカラと開いた玄関の引戸に気付いたのか私に目を向け、それと同時に見知った顔である事に柔らかい笑みを浮かべた。
「ご無沙汰です!」
「よぉ来たよぉ来た。元気にしよったね?」

手招きされ本堂に入った私は「まちっと待ってもらってよか?」と小声お願いされる。慣れたもので、本堂の裏手へ続く艶やかな木目を見せる廊下を進み、給湯室に入るとお茶とお菓子を引っ張り出す。二煎目を煎れ始めたタイミングで戻ってきた住職と、快活な挨拶を交わした。
幼少期の悪ガキ時代から付き合いがある住職は、私にとって親戚のおじさんみたいなものだ。本堂にも何度となく足を運んでいる。
堅苦しい社交辞令もそこそこに、第二の我が家の様にくつろぐ男2人の姿がそこにはあった。

「あ、そうだタカ(崇正の略)。ぬしゃ明日用事ばあんね?」
「んーんなかよ。そぎゃん事なして聞くん?」
「そらぁあればい。ホームステイ?じゃなかとばってん…本堂ば泊まりたぁ言う外国人がおっけん、そのお試したい。」
どういう巡り合わせか。
こんなド田舎のお寺に宿泊してみたいという、多少たどたどしい日本語で依頼の電話があったとか。
経緯としては写経と合わせて書の書き方を教えている学生さんが、向こうのお国にホームステイした際、地元の話をしたのだという。
話に上がった仏教のスタイルに感銘を受けたらしく、簡易的な体験だけでもしてみたいとのこと。そんなこんな承諾自体は既にしており、住職の身としては仏教に関心を持ってもらえて実に嬉しそうだった。
無駄にサプライズ精神旺盛な住職は「普通の民家で泊まるのも、味気ないのではないか」と考えた。そこで白羽の矢が立ったのが、本堂というわけだ。
空調はちゃんと整備してあるので宿泊に問題はない(今は10月初めなのでそもそも必要はなかった)。あとは事前のトライアルとして、感想をくれる人材がいれば完璧。
散々幼少から変な事を体験してる私からしたら、夜中のお堂で夜を明かすくらいお茶の子さいさいである。むしろ明日は奥さんお手製のコロッケが食べられると聞いて、二つ返事でOKした(目的を達してルンルン気分で山を降りる人が、見られたとか見られなかったとか)。

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コメント(1)
  • え、化け物?の前にその少年は何者だったんだ、、

    2024/11/02/16:51

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