女と猫のいる牢屋
投稿者:化け學 (3)
女がテレビでも見ようかと言ってリモコンをかざした。
テレビは黒い画面のままだった。
正確には画面の8割くらいが真っ黒で左下の一部だけかろうじて映っている。音声は聞こえるのでニュースなのは分かった。
どんな設定なのか分からないが、左下の唯一生きている部分にニュースの内容がテロップで流れていて、女がそれを読み上げている。
「大阪府警富田林署から逃走した容疑者が山口で捕まったんだって」
全部声に出して言ってくれている。画面が真っ黒な事にはどちらも少しも触れない。
怖すぎてもうずっと口が開いたままになっていた。
ベランダから外を見た。日が出ていて鳥が飛んでいる。
自分がいる空間と外の世界が果てしなく遠いような錯覚を覚えた。僕はここから出る事が出来るのだろうか。
猫達だって本当は全員逃げたいはずなのに何十匹も閉じ込められている。自分だけ逃がしてくれる保証なんて無いじゃないか。最近ミザリー見直したのも良くなかった。
急に絶望感が襲ってきた。
悲観に暮れていると、
「眠たくなったからパジャマ取って来い!」
女が強い口調で命令してくる。
指示された場所まで向かうと棚に乱雑に服が突っ込んである。パジャマっぽい上下を取り、これですかと差し出す。
「ちゃうわ!ジェラードピケのヒラヒラしたやつあったやろ!」
再度向かうとそれっぽいやつがあるのですぐ持って行く。
「ズボン脱がせてそれ履かせて!」
恐る恐るズボンをおろして、パジャマを履かせようとしたそのタイミングで急に、
「いやんえっち」
て言ってきた。
そんなん言われても無理に決まっている。人肉を貪り食う鬼女が滴り落ちる血を舌で舐めながらこちらを見てニタリと笑うようなツンデレだ。
恐怖で青ざめ、バクバクと心臓の鼓動が聞こえた。
引き攣った愛想笑いをしたまま、そそくさとパジャマを履かせた後、誤魔化してやり過ごす為にジャンプを読む事にした。ハンターハンターを何回も繰り返し読む。
女は、なら私もと例の漫画を読み出した。ゲラゲラ大声で笑っている。もうそれすら怖い。
しばらくすると女が目を瞑っている。息を殺して10分くらい動かずに様子を見る。どうやら寝たっぽい。
今しかないと思い、物音ひとつたてずに出口に向かう。
奥の敷布団で寝ていたので、猫たちが今度は出口にあたりに集まってしまっている。
近づいてくる僕にシャーシャー威嚇しだした。
違うんよって頭で言いながら、持っていたジャンプを使って猫をそうっとどかしていく。
押しに弱くて断れない男にイライラする
ねこ 逃がしてあげてほしかった