お盆に帰ってきたもの
投稿者:牧芭之ちぃ (4)
「お母さん、本当に見えてないの?」
「見えてないね。何も感じないけど、そんなにひどいの?」
「ひどいっていうか、いっぱい顔がある。数えきれないくらい」
「そうなんだ……うーん、私は何も見えないし何も感じないからなあ……」
「そっかあ……でも確かに、嫌な感じはしないかも」
「そうなの?……なら、ちょうどお盆だから、みんな帰ってきているのかもしれないね」
会話はそれでいったん終了しました。
母には何も見えないし感じない。
私には見えているけれども、何もできない。
天井に無数の顔はあるものの、敵意は感じないし襲いかかってくるわけでもないので、私たちはいったん食事の準備に戻り、朝食をとることにしました。
朝食をとる最中も、顔は消えず、どうしたものかなと思っていると、食事を終えて食器を片付けにキッチンへ行く母の後ろに、あるものを見つけたのです。
それは男の顔でした。
母の腰の少し後ろのあたりに、半透明の男の顔、首から上が浮かんでいる。
ふわふわと浮遊しながら、母のあとについていくようにしているのです。
天井にひしめくものたちとは違うそれにぎょっとしましたが、その顔には見覚えがありました。
今まさに隣で食事をとっている、祖父の顔にそっくりなのです。
他の顔と違うところは他にもありました。
その男の人は帽子をかぶっていました。今だからわかりますが、それは軍帽でした。
酷く穏やかな顔つきをしていて、母の後ろにふわふわとついている。
そして私の食事が終わるころには、ふっと蝋燭を消すように消えていきました。
食器の片づけをした後、またこっそりと母を呼び出しそのこと伝えると、「……もしかして」と母は思案する顔をしました。
それから私をある場所へと連れていきます。
仏壇です。
仏壇の棚にしまってある箱の中を漁って、出てきたのは数枚の写真。
それは、既に他界した曽祖父の映ったものでした。
「この人だ……!」
祖父の顔にそっくりなその人。
さっき見たのと同じ、あの帽子を被っている。
それだけではなく、その写真は集合写真で、その人と同じ格好をした人々、……戦時中の兵隊さんたちがたくさん映っていました。
「私も会ったことはないんだけどね。戦争で亡くなったんだって。……もしかしたら、本当にお盆だから会いに来てくれたのかもしれないね」
おっふ…