お盆に帰ってきたもの
投稿者:牧芭之ちぃ (4)
私が実際に体験したお話です。
小学生の頃、夏休みになると母方の実家に遊びに行っていました。
母、私、弟の三人で、祖父母の住む関東地方に5日間ほど滞在するのです。
毎年恒例のこの行事。
皆で一緒にお出かけしたり、プールに遊びに行ったり。
そんなふうに祖父母との時間を楽しんでいたのですが……。
ある朝、突然それは起きました。
目が覚めると、天井いっぱいに無数の人間の顔が広がっていたのです。
顔、顔、顔、顔、顔。
男の人、女の人、おじいさん、おばあさん、小さな子もいる。
いろんな人間の顔が、天井いっぱいに敷き詰められるようにして蠢いている。
半透明のそれらの向こう側には、天井の木目が透けてみえていました。
布団に寝転がったまま、私は固まりました。
寝ぼけた頭にいっぱいの顔の情報が入ってきて、ゆっくりとそれを認識してから、私は一度目を閉じました。
それから再び天井を見ましたが、状況は変わりません。
部屋の天井いっぱいに、見知らぬ顔がひしめている。
しかし不思議と嫌な印象はありませんでした。
こちらを見たり睨んだりしてくるわけでもなく、ただそこに普通の人間の顔が無数にひしめているだけなのです。
しばらくそれらを眺めた後、私はとりあえず1階に降りることにしました。
祖父母の家に泊まる時には、1階に祖父母、2階に母と私と弟が寝泊まりしているのですが、母と弟の姿が見当たらなかったからです。
すでに起きていて1階に行っているのかもしれない。
それに、この状況を共有できるのは、霊感体質である母だけなのです。
私はできるだけ天井を視界に入れないようにしつつ、1階に繋がる階段を下りていきました。
1階のキッチンでは母と祖母が朝ごはんの準備をしており、祖父と弟はリビングでテレビを見ていました。
その1階の天井にも、無数の顔がひしめています。
「…………おはよう」
「ああ、おはよう。朝ごはんもうできるよ」
「うん、ありがとう。手伝うけど、ちょっとだけ話いい?」
不思議そうにする母を廊下に呼び出し、私は今見えているものの話をしました。
しかし、同じものが見えているだろうと思っていた母は、「そんなものは全く見えていない」と答えたのです。
おっふ…